2月に入り、TikTokは少し静かになってしまった。ユニバーサル ミュージック グループ(UMG)がTikTokとのライセンス契約を更新しないと発表し、同レーベルの楽曲が削除されたからだ。テイラー・スウィフト、ドレイク、バッド・バニー、アリアナ・グランデ、ビリー・アイリッシュは、同レーベルの主要アーティストのほんの一部にすぎない。
無音になった公開済みの動画も
TikTokのクリエイターは、トレンドに参加し、より魅力的なコンテンツをつくるため、動画にミュージッククリップを追加することが多い。契約終了により、ユーザーはUMGアーティスト公式の楽曲で新たな動画を作れなくなる。加えて、すでに公開されているUMGアーティストの楽曲を使用した動画は、無音になっているものもある。UMGの音楽カタログにはBTSからビートルズまで含まれており、彼らの曲を使った動画は影響を受ける可能性がある。
UMGはTikTokとの契約が切れる前日、1月30日に声明を発表し、アーティストへの報酬、人工知能(AI)からの保護、プラットフォームの安全性を巡る意見の相違が原因で更新の交渉が決裂したと述べた。声明の文言は、TikTokを “いじめっ子” として印象づけている。
「TikTokは、どのようにわたしたちを脅迫しようとしたのか? 発展途上のアーティストの楽曲を選択的に削除する傍ら、ユーザーを牽引する世界的スターの楽曲はプラットフォームに残すよう迫りました」
契約が失効し、より広範でUMGの曲が使えなくなる以前、同レーベルのどのアーティストがTikTokの影響を受けていたかは不明だ。TikTokはこれに対し、UMGを “貪欲” で “欺瞞(ぎまん)的” な企業として、短いながらも同様の声明を発表した。
「ユニバーサルの虚偽のシナリオと発言はさておき、彼らは、10億人を超えるユーザーを持ち、彼らの才能を無料で宣伝・発掘するプラットフォームによる強力なサポートから離れることを選択しました。それが事実です」
「AIによるアーティストの置き換えを支援」
音楽業界に対するTikTokの影響力は近年拡大しており、アーティスト(とレーベル)が同プラットフォームの不可解なアルゴリズムを突破しようと試みている。現在、楽曲ストリーミング用の別アプリTikTok Musicのベータ版が、特定の国際市場向けにリリースされている。
生成AIツールの改良に伴い、AIによるボーカルやそのほかの楽器演奏を採用した楽曲がソーシャルメディアで拡散され続けている。UMGは声明で、TikTokはAI音楽の創作を促進しており、TikTokが望む契約を結ぶことは「AIによるアーティストの置き換えを支援するのと同義だ」と主張している。
UMGが機械学習を問題視するのは、これが初めてではない。同レーベルは2023年10月、生成AIスタートアップのAnthropicを相手取り、同社のAIモデルがUMGアーティストの著作物である歌詞を使用する可能性があるとして、訴訟を起こしている。
(WIRED US/Translation by Rikako Takahashi)
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