ウェイバー公示
ウェイバー公示(ウェイバーこうじ)とは、プロスポーツにおいて、契約期間中にチームが支配権を放棄(waive, 英語発音: [weɪv])する選手(waiver, 英語発音: [ˈweɪvər])を公表する手続きである。
プロ野球
編集日本プロ野球
編集セントラル野球連盟もしくはパシフィック野球連盟のいずれかに加盟している球団が、契約拘束期間である2月1日から11月30日の間に選手との契約を破棄する場合は、所属連盟にその旨を申請し必ず本手続きを行う。手続き完了後すぐに当該選手は公示され、譲渡を望む球団による申し込みを待つことになる。ただし公示より3日以内なら球団が申請を取り消しできる。複数の球団が譲渡を申し込んだ場合は、同一連盟所属球団が優先され、さらにその中で公示から1週間後時点(シーズン前の場合は前シーズンの成績)での勝率の逆順で優先される(ウェイバー方式)。1週間後までに申し込みがあれば譲渡先球団が確定され、一律400万円の譲渡金を以て当該選手の移籍が決定する。公示より1週間の間に譲渡を希望する球団が現れなければ、当該選手に対する旧球団の保有権は消滅し、公示上は自由契約選手となる。
しかし自由契約選手となった時点で二軍・三軍戦を含めシーズンの残り試合に一切出場できなくなる上、他の球団と契約することができるようになるのはシーズンオフの12球団合同トライアウト終了後という問題点がある。特に開幕後早い段階でウエイバー公示を出されて獲得希望球団が現れない事態になると、他球団に対して獲得をアピールする場が失われるばかりか、キャリアにブランクが発生しその選手の将来という意味で致命的なマイナスとなり得る。
ただし選手側に契約条項などに対する違反があった場合は例外で、コミッショナー(日本野球機構会長)の承認を得てそのまま自由契約とするか、コミッショナーに報告して制限選手・資格停止選手・出場停止選手・失格選手のいずれかにする措置を取る(統一契約書第26条「球団による契約解除」[1])。
ウェイバー公示による移籍はトレード、途中入団の期限以降でも認められている。2003年には7月22日に中日ドラゴンズを解雇されウェイバー公示されたエディ・ギャラードが7月28日に横浜ベイスターズに移籍(当時のトレード・途中入団の期限は6月30日)、2017年には北海道日本ハムファイターズからウェイバー公示されたルイス・メンドーサが8月31日に阪神タイガースへ移籍(当時のトレード・途中入団の期限は7月31日)した実例がある。また育成選手としての再契約を前提に、中日ドラゴンズが金本明博をウェイバー公示としたものの、日本プロ野球選手会の抗議によってリーグ側が野球協約違反[注 1]を承知の上で公示を取り下げている。
なお、毎年11月30日に提出される次年度選手名簿及び保留者名簿から選手を外した場合は、契約満了による退団と見なされ一連のウェイバー公示は成されず、その選手は即座に自由契約となる。ドラフトを経て入団した選手は任意引退を除けば基本的にはこの扱いを受けることになる。最後に日本人選手のウェイバー公示が行われたのは、前出の金本を除けば2005年秋にされた中日の戦力外6選手となっている。
野球協約や統一契約上では、「ウエイバー」と表記されている。(野球協約115条~124条参照[2])
日本球界初のウェイバー公示による移籍選手は、ディック・ディサ(1964年。大毎→近鉄)である。
MLB
編集メジャーリーグベースボール(MLB)において、ウェイバー自体は原則一般非公開で行われ、MLB機構を通じて各球団に公示される。ウェイバーは目的別に下記4種類に分かれ、MLB登録選手の支配権放棄を表明する目的だけに留まらない[3]。
- (Irrevocable) Outright Waivers
- Unconditional Release Waivers
- Optional Waivers(2017年以降は不要)[4]
- マイナー・オプションが残っており、且つMLBデビューから3年以上経過している選手をマイナー降格(40人枠に残したまま26人枠から外す)させたい場合に、義務化されているウェイバー。
- 2017年施行の新労使協定にて、上記ケースでのウェイバーは不要となった[注 3]。
- Trade Assignment Waivers(2019年以降は廃止)[6]
ウェイバー公示期間中(47営業時間内)に他球団から獲得申し込み (Claim off) を受けた場合、公示期間内に相手球団に対して以下いずれかを行わなければならない。
- その選手の所有権を譲渡する
- その選手を含むトレードを行う
- トレード・デッドライン以降のシーズン期間中は不可。
- 必然的に、選手がトレード拒否権を持たない、またはトレード拒否権を行使しないことも条件となる。
- ウェイバー公示を取り下げる[6]
- Outright Waiversは取り下げられない。
- 各選手につき、1シーズンで1度しか取り下げられない。
複数の球団から獲得申し込みがあった場合はその時期により、以下の優先順位で権利獲得球団が決まる。ただし当シーズン中、Outright Waivers公示中の他選手を獲得している球団は、優先順位が最下位となる[8]。
- 11月11日から4月30日まで(またはシーズン開幕から30日経過するまで)
- 直前シーズンで最も勝率の低かった球団。
- 上記期間後から7月31日まで
- その時点で今シーズンの勝率が最も低い球団。
- 上記期間後から11月10日まで
- 同一リーグの球団。複数ある場合は、その時点で今シーズンの勝率が最も低い球団。
獲得申し込みがなく、公示期間が終了してウェイバーを通過 (Clear Waivers) した選手に対し、球団は以下いずれかの手続きを行うことが可能になる。[9]
- (DFAを伴わない Outright Waivers の場合)マイナー降格
- (DFAを伴う Outright Waivers の場合)マイナー契約[注 7]
- 選手と改めてマイナー契約を結び (Outright Assignment) 、傘下マイナーリーグの球団に残留させる。ただし、サービスタイムが3年を超える選手、または以前にOutright Assignmentの経験がある選手はこのマイナー契約を拒否することができる[8]。
- (Optional Waivers 以外の場合)自由契約 (FA)
- Unconditional Release Waiversの場合、必ず自由契約 (Release) となる。
- DFAを伴う Outright Waivers の場合、球団にマイナー契約の意思がなければ自由契約 (Release) となる。選手がマイナー契約を拒否した場合も自由契約 (elected free agency) となる。選手が拒否権を行使せずマイナー契約を結んだ場合でも、以降40人枠へ復帰できなかった場合はシーズンオフ中に自由契約を選択できる[10]。
- DFAを伴わない Outright Waivers をクリアしても、選手を自由契約にはできない。
- ウェイバー通過後に自由契約となった選手と契約する場合、獲得球団はMLB最低保証年俸額[注 8]を残りのシーズン分の日割り計算で支払うだけでよい。なお、それ以前の契約は有効で契約年俸から最低保証年俸を差し引いた金額を所属元球団は別途支払い続けなければならない[11]。
- 何もしない
- ウェイバー公示前と同じ状態で選手をキープすることも可能。ただし、Unconditional Release Waivers、またはDFAを経た Outright Waivers の場合は不可。
※以上、2017-2021年まで有効な新労使協定上の規定。
KBO
編集KBOリーグでも球団が選手契約を放棄する時にウェイバー公示の手続きが取られることがある。ただし、いかなる理由があってもウェイバー公示を取り消すことはできず、また選手契約の譲渡を希望するチームは公示日から7日以内に申し込まなくてはならない[12]。もし当該選手の獲得を望む球団が現れなかった場合、その選手はシーズン終了まで韓国国内における一切の選手契約及び活動が許されなくなる。
また選手にはウェイバー公示を拒否する権利がある。拒否した場合は身分が任意脱退選手に変更される[13]。2021年6月現在までウェイバー公示を拒否した選手はいない。
プロバスケットボール
編集NBA
編集脚注
編集注釈
編集- ^ 野球協約にはリーグ側がウェイバー公示を取り下げる権限については規定されていない。
- ^ 日本プロ野球の支配下選手登録に相当。
- ^ 「Optional Waiversでの公示中選手には、獲得申し込み (Claim off) をして奪ってはいけない」という不文律が各チーム間で合意されており、事実そのようなケースも無かったため、2016年以前から形骸化していた規定と言われている。[5]
- ^ 2018年までは、ウェイバーを通過させればトレード期限日以降のシーズン途中でも40人枠内の選手をトレードすることが可能だったため、8月以降はしばしばトレードの交渉や駆け引きを目的としたTrade Assignment Waiverが行われていた(後述の通り1回だけウェイバーを取り下げることができるため、「他球団の獲得意思を探る」「(第三者の球団に)本当にトレードしたい選手が誰なのか分かりにくくする」などの目的で、トレードで放出するつもりなど全くない主力選手たちも極秘裏にウェイバー公示されることが頻繁にあった)。2019年から、トレード期限日以降の40人枠内選手のトレードは、ウェイバーを通過させた場合でも禁止となった。
- ^ Unconditional Release Waiversの場合は1ドル、Outright Waiversは20,000ドル(2018年現在)。
- ^ MLSはレギュラーシーズン中、その選手がアクティブ・ロースター(負傷者リスト登録中期間や各種出場停止期間も含む)に登録されていた日数をもとに算出され、年間172日間以上登録されればMLS1年 (MLS=1.000) 換算となる。表記上は1日でMLS=0.001、171日で0.171、172日で小数点が繰り上がり1.000となる。
- ^ 40人枠外で選手と締結する契約の通称。
- ^ 2024年は74万ドル、2025年は76万ドル、2026年は78万ドル。
出典
編集- ^ “統一契約書様式” (PDF). 日本プロ野球選手会. p. 5. 2023年7月13日閲覧。
- ^ “日本プロフェッショナル野球協約2022” (PDF). 日本プロ野球選手会. pp. 25-26 (2022年). 2023年7月13日閲覧。
- ^ “Transactions Primer”. ESPN.com. 2016年5月3日閲覧。
- ^ a b “Transaction Glossary” (英語). Cot's Baseball Contracts. 2020年11月24日閲覧。
- ^ Brian Michael (2018年8月2日). “How MLB Waivers Work” (英語). Phillies Nation. 2020年11月24日閲覧。
- ^ a b Andrew Simon (2017年8月2日). “Deals not done: A guide to waiver trades”. MLB.COM. 2019年3月15日閲覧。
- ^ Anthony Castrovince (2019年3月14日). “Rule changes coming this year and next”. MLB.COM. 2019年3月15日閲覧。
- ^ a b c “Outright Waivers” (英語). MLB.com. 2019年11月21日閲覧。
- ^ “Everything MLB Fans Need to Know About the MLB Waiver Trade Deadline”. bleacher report (2015年8月1日). 2016年5月3日閲覧。
- ^ “Major League Baseball Transactions Glossary” (英語). Chicago Cubs Online. 2020年11月24日閲覧。
- ^ ただし、2022年時点の労使協定では、年俸調停を経て当年の年俸が決定した選手については、自由契約後の年俸支払い義務がない。Maria Guardado (2024年3月10日). “J.D. Davis reportedly placed on waivers by Giants” (英語). MLB.com 2024年3月10日閲覧。
- ^ KBO規約第94条・第95条
- ^ KBO規約第98条