デジタイザ
デジタイザ(英:digitizer)とは、アナログのデータをデジタルのデータに変換(デジタル化、デジタイズ)する装置である。ペンタブレットの原型。
概要
編集専用のポインティングデバイスとセンシングデバイスの組み合わせにより、「人間の動作」というアナログなデータをコンピュータ上のデジタルなデータとして取り込むことが可能となる。
センシングデバイスのユーザーインターフェースは、1990年代当時は板状(タブレット型)の装置が一般的だったが、1980年代はブラウン管ディスプレイに直接ペンを当てるライトペン型の装置も一般的であった。例えば、セガ・エンタープライゼス社が開発し1980年代中ごろまでのゲーム製作に使われた初代「SEGA Digitizer System」は、ライトペンを使う方式であるが、メガドライブ版『ゴールデンアックス』(1989年)以降のゲーム制作に使われた「SEGA Digitizer System III」は、タブレットを使う方式である。「SEGA Digitizer System III」では、グラフテック社のタブレットである「Mitablet-II」(マイタブレット) KD4030(380 mm x 260 mm)およびKD4600(460mm x 310mm)がインターフェイスとして用いられた。元々はAutoCADを扱うために作られた業務用デジタイザを、ゲームのドット絵を描くシステムに流用したものである。ブラウン管ディスプレイの全画面と、タブレット型センシングデバイスの操作エリアは、1対1で対応していた。
タブレット型センシングデバイスに対応するポインティングデバイスは、「ペン型」も存在したが、精密な座標が取れる「カーソル型」の方が主流だった。1980年代当時のペン型デバイスは筆圧感知もないことから、絵を描けるようなデバイスではなく、それよりも狙った座標に正確にドットが打てるポインティングデバイスが求められた。「カーソル」は、ルーペの付いたマウスのような形をしていた。
1990年代までは「デジタイザ」というと、机の天板一つ分ほどある巨大な装置を指すのが一般的で、小型のものは「タブレット」と呼ばれた[1]。これらの「デジタイザ」や「タブレット」などと呼ばれるデバイスと、1980年代から1990年代にかけてコンピュータの入力装置として一般的に使われていたマウスとの違いは、「絶対座標値が取れる」という点である。そのため、製図用紙に描いた図面をコンピューター上の図面(CAD)に変換したり、方眼紙に描いたゲームのキャラをコンピューター上のグラフィックデータ(ドット絵)に変換したりするのに適していたので、CADを使う建設・電設・土木業界や、ゲーム業界でよく使われた。お絵かき用のタブレットが手の届く範囲の大きさしか必要ないのと違って、業務用デジタイザは製図用紙に描いた図面を絶対座標でデジタル化する用途で使われるため、製図の図面が収まる程度に巨大だった。
1980年代当時のゲームのグラフィック用のデジタイザは、ゲーム会社ごとに内製であったため、CAD用デジタイザを流用した物とは限らず、会社ごとに全く形が違っていた。例えばテクモが1980年代にゲームのグラフィック用デジタイザとして開発した「エディピュータ」は、プレビュー用ディスプレイとライトペン用ディスプレイの2画面式によって、現在の液晶タブレットに近いシステムを構築していた。
デジタイザとしてゲームのコントローラーを流用した例もある。1980年代初期のハドソンでは、ファミコン実機をベースとする開発機を開発し、ファミコンのコントローラを使ってファミコン用ゲームのドットを打っていた。なお、ハドソンは1980年代中ごろよりNECと次世代機PCエンジンを共同開発し、NECのPC-9801を開発機として導入したが、当時のPC98はマウスがなかったため、キーボードでドットを打っていた。タイトーはアーケードコントローラーをそのまま流用したデジタイザを使っており、ジョイスティックとボタンでドット絵を打っていた。X68000はマウスを標準搭載しており、マウスでドット絵を打つのが一般的だったが、X68000にアケコンを接続し、タイトー内製のX68000用ドット絵ソフト「アニメーター」を使ってアケコンをレバガチャしてすごい速さでドット絵を打つタイトー(およびその協力会社)のグラフィッカーは他社の人間から見てもさすがに異様だったらしい。
1994年にワコムが「ArtPad」を発売するまで、デジタイザは数十万円以上するのが一般的で、一般人が簡単に買えるものではなかった。1980年代後半にはX68000などグラフィックにすぐれたパソコンが発売され、中小のゲーム会社や一般人のCG製作では市販のパソコンとマウスとグラフィックソフトを使ってドット絵を打つ手法が一般的になった。その過程で、方眼紙に描いたイラストをサランラップにトレースし、それをディスプレイに張り付けてマウスで再トレースする「ラップスキャン」など、限られた予算で効率的なデジタイズを実現する様々な手法が開発された。
1990年代までは様々な方式のデジタイザが存在したが、1994年にワコムがお絵かき用ペンタブレット「ArtPad」を実売2万円台という異様な低価格で発売すると、1990年代後半以降はペン型のポインティングデバイスとタブレット型のセンシングデバイスを使う、いわゆる「ペンタブレット」と呼ばれるもの以外は淘汰された。「ArtPad」シリーズのヒットで1990年代後半以降にデジタイザ最大手となったワコムのペンタブレットでも、2010年ごろまではカーソル型のポインティングデバイスがオプションで利用できた。
なお、スキャナやモーションキャプチャなども広い意味で「デジタイザ」に含まれる。こちらに関してはデジタイズを参照。『モータルコンバット』(1992年)の制作に使用された「デジタイザ」は、ソニーのHi8とTruevision社のTargaボードを組み合わせたビデオ編集用ワークステーションであった。1992年当時の日本では「実写取り込み」として紹介された。