孤立主義(こりつしゅぎ、: Isolationism)とは、第二次世界大戦前までアメリカ合衆国が原則としたヨーロッパ問題に介入しない外交政策で、モンロー主義に代表される非干渉主義のこと。1917年4月、この原則が破られて、アメリカは第一次世界大戦に参戦した。アメリカは協商国(英仏露など)に多額の借款を与えたがそのほとんどが返済されず、5万人以上の若者がヨーロッパ戦線で命を落とし、その結果できあがったベルサイユ体制は、ドイツにだけ責任を押し付けた矛盾があちこちで噴出し、アメリカ国民は幻滅していた。そして、アメリカ国民の80%以上、ワシントン議会の約75%はヨーロッパの戦いには非干渉の立場を取るべきだと考えていた[1]。対独戦争参戦を目論むフランクリン・ルーズベルト政権に対し、1940年9月4日、ヨーロッパ問題非干渉を主張する「アメリカ第一主義委員会」が設立され、同委員会の主催する集会は常に熱狂的な支持者で溢れたが、真珠湾攻撃によって、同委員会は活動を終息し、非干渉主義は一気に雲散霧消することになった[2]

その元々の源泉は、初代大統領ジョージ・ワシントンが離任に際しての告別演説の中で、「世界のいずれの国家とも永久的同盟を結ばずにいくことこそ、我々の真の国策である」と述べたことである(もちろん、厳密に言えばこれは「非同盟主義」の萌芽である)。

孤立主義は、第二次世界大戦序盤、どうしても対独戦争に参戦したいアメリカ北東部の金融資本家を中心とした干渉主義者の影響下にあるメディアや政治家が、非干渉主義を支持する大多数の国民を批難するために、国民に強い罪悪感を植え付けようとして使い出したプロパガンダ用語[1]

背景

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南北アメリカ大陸などのアメリカが権益を持っているところ以外の地域については、不干渉を原則とした。これは、アメリカは大洋の向こうにある国々と軍事的なかかわりを持つ必要が薄かったからである。また、移民国家であるアメリカに不必要な内紛が起こらないようにするためでもあった。

つまり、孤立主義は「アメリカ合衆国一国主義」「アメリカ合衆国単独行動主義」の消極的側面とも言える。モンロー主義の時代は南北アメリカ大陸の権益の独占を目指し先住民の掃討・米墨戦争をした「アメリカ合衆国一国主義」「アメリカ合衆国単独行動主義」の時代であるが、南北アメリカ大陸以外には不干渉の立場をとったため、ヨーロッパにとってはアメリカ合衆国の「孤立主義」の時代と言われる。

先住民掃討が完了した1890年の「フロンティア消滅宣言」前後からはアメリカ合衆国は太平洋にも権益を求め、米西戦争の結果キューバを保護国化し、フィリピンプエルトリコグアム島などを植民地として取得しても、この原則は変わらなかった。

第一次世界大戦後、ウッドロウ・ウィルソンの下で一時的に積極的な国際関係を構築しようとする動きがあった。しかし、アメリカ合衆国連邦議会国際連盟への加盟を否決するなど、アメリカ国民の支持は得られなかった。

対独戦争参戦を目論むフランクリン・ルーズベルト政権やロックフェラセンターに事務所を構えた英国安全保障調整局の工作により、非干渉主義の言論人や有名人は排斥され、干渉主義称揚映画(典型的な作品はアルフレッド・ヒッチコックの『海外特派員』)が制作された。

孤立主義の終焉

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第二次世界大戦が始まっても孤立主義の支持は根強く、是非を問う論争が続いた。しかしながら、この論争は1941年12月7日(米国時間)の大日本帝国による真珠湾攻撃によって終息し、アメリカは第二次世界大戦に参戦した。そしてその勝利後にアメリカを待っていたのは、大戦を機に世界への軍事的影響力を増大させ、本格的に共産主義革命の輸出を目論む超大国へと成長したソビエト連邦だった。冷戦の時代の到来である。

長年に渡る孤立主義により、国力を蓄積・温存し、自らも全世界に影響力を持ち得る超大国となっていたアメリカは、東側陣営の増長の脅威に直面して、ここに一転して建国以来の国是であった孤立主義を放棄し、「世界の警察官」の語に象徴される内政干渉覇権主義へと舵を切ることになった。

冷戦の終了後は「アメリカ帝国」「アメリカ合衆国単独行動主義」の傾向を強め、国際連合安全保障理事会決議なしのアフガニスタン紛争イラク戦争を行うことになった。

新孤立主義

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ところが、イラク戦争の失敗やアメリカの財政逼迫などの影響で、ネオコンが退潮し、再びアメリカ合衆国議会で孤立主義が復活する動きが出ているという指摘が2013年から出始めている。

2013年、シリア軍化学兵器使用疑惑を受けて、バラク・オバマ米大統領はシリア内戦への軍事介入を示唆したが、イラク戦争を積極的に推進した共和党の議員の多数が反対。オバマ自身も、本心は軍事介入に消極的だったという指摘もあり、結局アメリカ軍の介入は当面見合わせることとなった。

しかし、この決断は軍事同盟国に波紋が広がっており、緊密な同盟国であるイスラエルは「いかなる脅威からも自己防衛できるよう力を強化しなければならない」(ベンヤミン・ネタニヤフ首相)とし、イランの核開発問題などで、もうアメリカを頼りにしない姿勢を打ち出した。もう一つの主要同盟国である日本にもこの「新孤立主義」の影響は及び、民主党(現在は自民党)の長島昭久は、「米国が間髪入れず反撃する前提が崩れるなら抑止力低下で深刻」などと述べた[3]

日本のメディア「産経新聞」は、日米同盟を重視する立場から、オバマ政権下のアメリカを「内向き」「指導力不足」などと批判的に評することが多くなった[4][5]。すなわち、産経新聞は中華人民共和国ロシア連邦の脅威に対抗するには、日米がタッグを組んで強い姿勢を見せることが必要だとしている。しかし裏を返せば、現状ではアメリカ軍なしで自衛隊だけでは(中露といった核保有国が複数存在する)日本周辺の脅威に何も出来ないという事であり、日本の今後の防衛政策について議論されている。

2016年のアメリカ大統領選の結果、孤立主義傾向が強いと看做される実業家のドナルド・トランプ共和党)の支持が選挙戦を通して急速に広がり、出馬当初は泡沫候補と見做されていたが、大統領の座を現実に射止めたことについても、関係国に懸念が広がっている。特に日本については、アメリカが無条件で日本や大韓民国を守るのは不公平という主張を彼は繰り返しており、仮にトランプが大統領になった場合、それまでアメリカの核の傘で国防を委託して経済活動に専念してきた日本にも甚大な影響を与える可能性が、かねてからマスメディアなどで示唆されていた[6]

この、あまり予想していなかった事態を受けて、日本国政府は大統領選後、急ピッチで新政権との人脈構築、日米同盟の維持に向けた作業を行っている[7]

脚注

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関連項目

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