魔界転生
『魔界転生』(まかいてんしょう)は、山田風太郎の伝奇小説、これを原作とする映画・演劇・漫画・オリジナルビデオ・アニメ・ゲーム作品の総称。
小説は『大阪新聞』に1964年(昭和39年)12月から1965年(昭和40年)2月まで連載され、この時の題名は『おぼろ忍法帖』(おぼろにんぽうちょう)。1967年(昭和42年)に講談社で単行本化、角川文庫・富士見時代小説文庫・講談社文庫で再刊されている。
1981年(昭和56年)の日本映画は主演:千葉真一・沢田研二、監督:深作欣二によって製作され、日本では観客動員数200万人・配給収入10億5000万円を記録した[1]。同年に千葉主演、深作演出による演劇も公演している。以来、漫画・オリジナルビデオ・アニメ・ゲームでも次から次へとメディアミックスが展開され、映画・演劇はリメイクされた。
山田風太郎自身も一番好きな作品と語っており[2][3]、その雄大な構想と奇抜な展開で、数多い『忍法帖シリーズ』の中でも最高傑作と云われている[4]。
小説
編集概要(小説)
編集森宗意軒という怪老人と出会った由比正雪は紀州の徳川頼宣と共に、徳川家光と江戸幕府の天下を奪わんとする企てを進めていた。森宗意軒は自ら編み出した忍法“魔界転生”によって、剣豪たちを意のままになる部下として生まれ変わらせてゆく。これは人並みはずれた技量と、死の直前になっても自分の人生に悔いを残している強烈な生の欲求を持つ人間が、死の直前に心から愛しいと思う女と交わることにより、新たな肉体と生前より優れた技量を持って生まれ変わる忍法であった。
“魔界転生”で蘇る剣豪達は転生衆、あるいは魔界衆と呼ばれる。天草四郎、荒木又右衛門、居合の田宮坊太郎、宝蔵院流槍術の宝蔵院胤舜、柳生新陰流では尾張の柳生如雲斎と江戸の柳生宗矩、二天一流兵法の宮本武蔵ら名だたる剣豪たちが転生した。しかし、森宗意軒にはもう一人、どうしても魔界転生させたい男がいた。その男こそ柳生十兵衛である。ところが十兵衛は宗意軒の意に反し、関口柔心の息子、関口弥太郎などとともに転生衆と戦うことを選ぶ。転生衆に倒された剣豪には、田宮平兵衛・関口柔心・木村助九郎がおり、彼らの娘や孫娘を救う、仇をとるというのが十兵衛の動機の一つになっている。
原作では柳生十兵衛率いる柳生衆と魔界衆の集団による戦闘が繰り広げられ、十兵衛が自分一人の力で敵を倒すことはほとんどなく、誰かしらの力を借りている。1981年(昭和56年)の日本映画から、十兵衛独りが天草四郎を総大将とする魔界衆に立ち向かって戦う脚色が成されている[5]。
同映画以降の派生作品でも一部の漫画を除き、十兵衛対四郎率いる魔界衆という基本設定が踏襲された。
題名は作中に登場する秘術だが、新聞連載時に『おぼろ忍法帖』、1978年(昭和53年)に角川文庫から再発売される時に『忍法魔界転生』[2]、1981年(昭和56年)の映画化では『魔界転生』と変遷している[6]。そもそも『おぼろ忍法帖』というタイトルは、山田風太郎が「連載時にどんな内容を執筆しても大丈夫だろう」と横着して付けた[2]。しかし完成した小説は題名と程遠い内容のため、自ら改題したと山田は答えている[2]。
登場人物
編集柳生衆
編集- 柳生十兵衛(やぎゅう じゅうべえ みつよし) - 柳生宗矩の嫡男。
- 磯谷千八(いそや せんぱち) - 柳生十人衆の一人。
- 逸見瀬兵衛(へんみ せへえ) - 柳生十人衆の一人。
- 伊達左十郎(だて さじゅうろう) - 柳生十人衆の一人。泣き顔。
- 北条主税(ほうじょう ちから) - 柳生十人衆の一人。激怒や感激など感情を露わにする。
- 小栗丈馬(おぐり じょうま) - 柳生十人衆の一人。精悍無比な雰囲気を持つ。
- 戸田五太夫(とだ ごだゆう) - 柳生十人衆の一人。地味な三十男。
- 三枝麻右衛門(さえぐさ あさえもん) - 柳生十人衆の一人。朴訥な性格。
- 小屋小三郎(こや こさぶろう) - 柳生十人衆の一人。最年少の17歳。
- 金丸内匠(かなまる たくみ) - 柳生十人衆の一人。最年長で40代前半。
- 平岡慶之助(ひらおか けいのすけ) - 柳生十人衆の一人。のんき者。
魔界衆
編集- 森宗意軒(もり そういけん) - 小西行長の遺臣。
- 天草四郎(あまくさ しろう ときさだ) - 魔界衆の一人。
- 宮本武蔵(みやもと むさし) - 魔界衆の一人。剣豪。
- 荒木又右衛門(あらき またえもん) - 魔界衆の一人。鍵屋の辻での仇討ちで知られる。
- 柳生利厳(やぎゅう としよし) - 魔界衆の一人。尾張柳生の開祖。
- 田宮坊太郎(たみや ぼうたろう くにむね) - 魔界衆の一人。柳生宗矩の弟子。
- 柳生但馬守(やぎゅう たじまのかみ むねのり) - 魔界衆の一人。徳川家の剣術師範。
- 宝蔵院胤舜(ほうぞういん いんしゅん) - 魔界衆の一人。槍術の達人。宝蔵院流の2代目。
キリシタンくノ一
編集- クララお品(くらら おしな) - 宗意軒に仕える切支丹くノ一。
- ベアトリスお銭(べあとりす おせん) - 同じく切支丹くノ一。
- フランチェスカお蝶(ふらんちぇすか おちょう) - 同じく切支丹くノ一。
忍法“魔界転生”
編集森宗意軒が西洋の黒魔術と日本の忍法を混合させ編み出した秘術。呪術者が切り落とした自身の手の指1本ずつを生贄の女性の子宮に宿させたもの(忍体と呼ばれる)を素体に、死の淵に瀕した武芸者を新たな肉体を持った魔人として再誕させる外道の法である。
死の直前になっても自分の人生に悔いを残している、強烈な生の欲求を持つ武芸者を忍体と交合させる。すると忍体は武芸者そのものを身籠り、忍体自体が武芸者の再生のための蛹のような状態となる。再生する武芸者は1か月弱の期間を経て母胎を溶かしながら成長を続け、やがて忍体を押し破り、新しい体を持った本人が生前と同一の姿で再生を遂げる。
魔界転生を遂げた人物は生前と同一の姿、同一の剣技を持ちながら、理性の箍が外れた残忍な人格に変貌し、元がどれほど慈愛ある人格者であっても破壊と陵辱の限りを尽くす魔人と化す。小説における転生衆の顔ぶれは、天草四郎・荒木又右衛門・田宮坊太郎・宝蔵院胤舜・柳生如雲斎・柳生但馬守・宮本武蔵の7名。これに加えて、未遂となった徳川頼宣、そして柳生十兵衛、最後に森宗意軒自身の計10名が、森宗意軒の10本の指と10人の忍体を介して魔界転生を果たす予定だった。
オマージュ・パロディ小説として
編集小説には、吉川英治『宮本武蔵』、五味康祐『柳生武芸帳』などの先行する有名な剣豪小説、『寛永御前試合』、ほか立川文庫の講談などのオマージュ、パロディ要素がふんだんに盛り込まれていることが、数多くの文芸評論家、文学研究者によって解説されている。
特に本作の宮本武蔵に纏わる描写には、“吉川武蔵”のパロディ、オマージュとされる要素が多分に含まれている。小説は主人公・柳生十兵衛と最強にして最後の転生衆・宮本武蔵の舟島の決闘とその決着を描く最終章「魚歌水心」でフィナーレを迎えるが、この「魚歌水心」という章第は“吉川武蔵”最終巻、武蔵と佐々木小次郎の舟島の決闘とその決着を描く最終章「魚歌水心」と、章第や舞台の地名が同一、かつ勝者と敗者が“吉川武蔵”と完全に裏返しの構図になっている[7]。細谷正充は「吉川英治の代表作への最高に皮肉で、最高に素晴らしいオマージュ」と評価している[8]。牧野悠は「柳生十兵衛が頭上から振り落とされる木剣ごと宮本武蔵を両断する趣向は、章題「魚歌水心」とともに、パロディの意図が明瞭である[9]」と言及している。
また武蔵が連れている弟子の少年「伊太郎」の名と立場が、“吉川武蔵”で武蔵が連れ歩いた2人の少年「伊織」と「城太郎」の名前を合体させパロディ化したものと指摘し、「“吉川武蔵”で描かなかった巌流島後の武蔵を語るところから始めた吉川版武蔵のパロディ」と指摘する論もあり[10]、”吉川武蔵”が確立した正統派ヒーロー然とした宮本武蔵像に対するアンチテーゼとして、「巌流島での佐々木小次郎との死闘を人生の頂点」とし、悪鬼外道の類に堕してでも強敵との戦いを渇望するダークヒーロー、ヴィランとしての「それから」の宮本武蔵像を世に提示する側面があった。
宅和宏は登場人物のうち、荒木又右衛門と田宮坊太郎を立川文庫、宮本武蔵と宝蔵院胤舜を“吉川武蔵”、柳生但馬守宗矩と柳生兵庫介利厳を『柳生武芸帳』からの登場人物と紹介し[7]、パロディの中でもいわゆるドリームマッチ物、当世風に言えばクロスオーバー、二次創作の分類で解説している。宅は「そう、これは剣豪小説のパロディなのです。それもかなり上質のもので、柳生の高弟の木村助九郎や田宮平兵衛が七人と対決するくだりは『柳生武芸帳』の五味康祐の文体にそっくり、ラストの船島での十兵衛と武蔵の決闘は吉川『武蔵』の有名なクライマックスに瓜二つでしかも完全な裏がえし、とくるのだからケタケタ笑ってしまう[7]」と、既存作品の展開の踏襲・キャラクターや章題のネーミング被せなどのわかかりやすいオマージュのみならず、文体模写などの高度なテクニックが含まれることを指摘し、そのパロディ要素を大いに賞賛している。
先行する著名剣豪集合作品に1895年(明治28年)の講談『寛永御前試合』(求光閣)を土台にした柴田錬三郎の『赤い影法師[注釈 1]』では、同作に見られる由比正雪と柳生十兵衛の対決というモチーフは、本作でも取り入れられている[10]。
後世への影響(小説)
編集剣豪小説パロディの側面を持って誕生したが[7]、高木彬光が「およそ時代小説を書こうとした作家が一度は夢に見て、しかもどのような鬼才怪筆の持ち主でもとうてい実現不可能とあきらめていたはずの見果てぬ夢[11][12] 」と評した、没した時代や全盛期が異なる名だたる剣豪たちを心身ともに全盛期の状態で蘇らせ、夢の対決を行う本作の革新的な発想は、多彩な媒体でフォロワー作品を生み出し続けている。
荒山徹は山田一風斎の秘術「擬界転送(まがいてんそう)」によって蘇った12人の幕末志士が明治政府を狙う筋書きの小説とクトゥルフ神話をミックスしたパロディ伝奇小説『大東亜忍法帖』[13]、森宗意軒率いる「神聖ハポン騎士団」の七剣士に柳生十兵衛が挑む『柳生黙示録』、動物に生まれ変わった人間を前世の姿に戻す「前世逆生」という朝鮮妖術が登場し、『魔界転生』や『柳生忍法帖』などと世界観を一にし、またも荒木又右衛門が復活する『竹島御免状』などのオマージュ作品を上梓している。
柳生宗矩を主人公とした近衛龍春の時代伝奇小説『柳生魔斬刀』は、「平成の魔界転生」というキャッチコピーで出版されている。魔界から蘇った天草四郎が徳川幕府への怨恨と魔王サタンならぬ「邪神アンブロジァ」の導きによって世界を破滅に導こうと暗躍する、島原の乱から150年後の島原の地を舞台に12人の剣士が戦いを繰り広げる『サムライスピリッツシリーズ』、歴史や伝説に名を残す英雄の写し身を召喚して戦う『Fateシリーズ』などのサブカルチャーにも影響を与えている[14][15][16]。七月鏡一は黄泉還った由比正雪を黒幕にした『サムライスピリッツ』本編の前日譚『サムライスピリッツ 魔界武芸帖』はオマージュ作品であると公表している[15]。奈須きのこは「『Fate』シリーズはもともと、『魔界転生』のオマージュです[17]」と言及しており、シリーズの原点『Fate/stay night』の製作動機は学生時代に読んで衝撃を受けた原作[17]、石川賢の漫画版[16][18]、両方を挙げている。『Fate』派生作である『Fate/Apocrypha』の黒幕として『Fate』シリーズに天草四郎が初登場するのも「Fateの更なる源流に本作があるのなら、天草四郎を登場させるのはどうか」という着想に由来している[16]。
『十 〜忍法魔界転生〜』単行本1巻発売時に奈須きのこは冲方丁・貴志祐介とともに販促宣伝文を寄稿し、せがわまさきはFateシリーズの看板ヒロイン・アルトリアを忍法魔界転生させた「魔界版セイバー」イラストを[19] 、添えた『十 〜忍法魔界転生〜』サイン本を奈須に贈っている[20]。
書誌情報
編集映画
編集1981年
編集魔界転生 | |
---|---|
Samurai Reincarnation | |
監督 | 深作欣二 |
脚本 |
野上龍雄 石川孝人 深作欣二 |
原作 | 山田風太郎 |
製作 |
佐藤雅夫 本田達男 稲葉清治 |
製作総指揮 | 角川春樹 |
出演者 |
千葉真一 沢田研二 佳那晃子 緒形拳 室田日出男 真田広之 丹波哲郎 若山富三郎 |
音楽 |
山本邦山 菅野光亮 |
撮影 | 長谷川清 |
編集 | 市田勇 |
製作会社 |
角川春樹事務所 東映 |
配給 | 東映 |
公開 | 1981年6月6日 |
上映時間 | 122分 |
製作国 | 日本 |
言語 | 日本語 |
製作費 | 5億円[注釈 2] |
配給収入 | 10億5000万円[1] |
1981年(昭和56年)の日本映画。主演:千葉真一・沢田研二、監督:深作欣二、製作:角川春樹事務所・東映。カラー・ビスタビジョン、122分。英語タイトルは『Samurai Reincarnation』。
ストーリー
編集寛永十五年(1638年)、松平伊豆守を総大将とする幕府の軍勢は、島原の乱で天草四郎時貞を始めとする2万人近い信者を容赦なく抹殺した。しかし死骸が積み重なる山の中から、悪魔の力により四郎は蘇る。「エロイムエッサイム 我は求め訴えたり」と悪魔召喚の呪文を唱えながら、幕府への復讐を誓う四郎は、自分と同じく現世で無念の死を遂げた者たちを魔界衆に引き入れようと画策し始める。
愛していた夫の細川忠興から火の海に取り残される仕打ちを受けた細川ガラシャ夫人。柳生新陰流、特に将軍家剣法指南の柳生但馬守宗矩と嫡男・柳生十兵衛光厳[注釈 3]、この二人を倒すことが悲願である宮本武蔵。女性への煩悩を断ち切れぬ己を恥じ、自ら命を絶った宝蔵院胤舜。甲賀組頭・玄十郎と甲賀衆に伊賀の隠れ里を奇襲攻撃され、一族もろとも殺された伊賀の霧丸。彼ら4名が次々と四郎の手で現世に蘇りを果たした。
久々に霧丸に会おうと伊賀の隠れ里を訪れた十兵衛は、甲賀衆による襲撃により焼き尽くされた里と多くの伊賀衆の亡骸を目の当たりにし、茫然としていた。それでも霧丸ら生存者がいないか探し続ける十兵衛の前に、ただならぬ妖気を放ち、馬にまたがる5人が突如現れる。彼らは四郎が率いる魔界衆であった。その1人である胤舜は駆け出し、馬上から槍で十兵衛に襲いかかる。間一髪で聳える巨樹に素早い跳躍で躱す十兵衛。胤舜だけでなく、霧丸や先年亡くなったはずの武蔵がこの集団に居たので、十兵衛は驚愕した。四郎はそのまま江戸へ向かうことを十兵衛に宣言し、5名は駆け去っていった。異様で不穏な雰囲気を感じ取った十兵衛は、書状で直ちに宗矩へこの異常事態を伝える。
巫女に化けたガラシャはその美貌・肢体と妖しい色香で、日光東照宮に参詣した四代将軍家綱に見初められて大奥入りを果たし、側室・お玉の方となる。伊豆守はお玉の素性を怪しみ、玄十郎に暗殺するよう指示していると、その密談の場に四郎と霧丸が突如乱入した。霧丸は玄十郎を、四郎は落命した女たちの髪で編んだ鞭を駆使し、伴天連秘法髪切丸で伊豆守を、それぞれ惨殺。二人の残骸は無惨に晒され、城内は慌てふためく。ガラシャに籠絡された家綱はだんだんと政に無頓着となり、その変わり様に老中たちは危機感を募らせる。
宗矩はお玉を魔界衆と睨み、村正に「魔物を斬るための刀」を打ってもらっていた。不治の病に冒されている宗矩は次男・柳生左門友矩に、嫡男・十兵衛と連携して魔界衆を倒すことを指示。自らは妖刀を携え、命と引き換えに、乱心を装ってお玉の方を斬ろうと江戸城へ向かう。
入れ代わりに武蔵が柳生家へ現れ、佐々木小次郎を倒した櫂を手にし、宗矩か十兵衛との決闘を望む。対する左門は父や兄の手を煩わすことなく、闘おうと鞘を捨てて上段に構える。武蔵は左門を「未熟」と言い放ち、嘲笑。挑発に怒った左門は走って斬りかかる。しかし武蔵は軽く払い、一撃で頭を叩き割り、左門は撲殺された。
登城する宗矩の前に、襲った女を抱えた胤舜が立ちはだかる。宗矩は胤舜の変わりように失望し、対する胤舜は将軍家に守られて逃げてばかりと罵り、決闘を挑む。宗矩は応じ、闘いが始まった。胤舜は間髪なく槍で突くが、宗矩は巧みに躱す。そして宗矩は受けた槍に刀を這わせ、一刀のもとに胤舜を切り捨てるが、その直後に吐血し死地を彷徨う。四郎は宗矩を魔界へ誘うが「生涯に悔いなし」と拒む。しかし十兵衛を息子以上に天才的な剣豪として愛していた宗矩は、一介の剣士として十兵衛と戦いたいという望みを四郎に見透かされてしまった。宗矩は魔界衆への転生を受け入れる。
柳生屋敷へ戻ってきた十兵衛は、遺体となった左門に対面。弟の前頭部がぐしゃぐしゃに粉砕されていることに気づき、宗矩に城内で何があったのかを尋ねるが、背を向けた宗矩は「理由を聞きたくば、側へ来い」と手招きするのみ。不審に思った十兵衛が様子を伺っていると、宗矩がおもむろに振り向く。その尋常ならざる雰囲気と面相に異常を察した十兵衛は、その場にいたもう一人の弟で三男・柳生又十郎宗冬に至急柳生の庄へ帰る様、指示する。宗矩は不気味な笑みを浮かべると同時に、十兵衛へ苦無を投げ、斬りかかってきた。素早く躱し、屋敷から離れる十兵衛は、宗矩までもが魔界衆に加わったことに衝撃を受けていた。
十兵衛は宗矩と武蔵を倒すため、村正の元へ訪れる。そして宗矩と同じく、魔界衆を斬れる妖刀を打ってもらうよう、依頼した。だが村正は、宗矩に渡した妖刀で精根を使い果たしており、一旦断る。その時、武蔵が十兵衛と決闘しようと、不意に村正の家へ乗り込んできた。妖刀もない十兵衛は村正の住居に入り込ませぬよう、入り口を厳重に閉じるが、武蔵の殺気が凄まじく、十兵衛は従来の刀で闘う危機に瀕する。その時、村正が機転を利かせ、養女のおつうにすぐ笛を吹くよう、命した。おつうは武蔵の恋人だったお通の姪で、笛は叔母の形見だった。それはお通が奏でる音色を彷彿とさせ、かつての思い出が蘇った武蔵は戦意喪失し、引き上げていく。驚愕した村正は、あのような化物を斬るには自分の刀しかないと、十兵衛の頼みを受け入れる。十兵衛も手伝い、刀を打ち始めた。そして再び精魂を込めて作った妖刀を十兵衛に渡すと「魔物を斬る刀が村正」と叫び、大往生。十兵衛は感涙しながら、礼を言う。
その間、四郎は霧丸を連れ、天領である佐倉の農村で呪詛を行ない、徳川の世を混乱に陥れようと企む。やがて作物は立ち枯れて凶作になったが、幕府は年貢の取り立てを従来通りとする。農民たちは幕府に不満と怒りを募らせ、代表者として数名が鹿狩り中の家綱に年貢の免除を直訴するものの、宗矩が鹿とみなして矢で射殺する。驚く家綱にお玉が「農民ではなく鹿の群れ」とまやかし、家綱は直訴人を宗矩と共に次々と射殺してしまった。死骸は磔にされたが、彼らの死を悼む農民らは四郎に扇動され、役人を殺し、一揆をおこす。近隣の村々から集まってきた農民は瞬く間に大多数となり、四郎に先導され、江戸城へ向かう。この間、霧丸は農民の少女・お光と心を通わせ、魔界に染まり切れず苦悩していた。その時、十兵衛と再会。人として生きるように諭された霧丸は、本来の優しさを取り戻し、お光と共に脱走を図る。だが裏切りを知った四郎が立ちはだかり、霧丸はお光の眼前で鞭で無残にも絞殺されてしまった。
十兵衛はおつうやお光と共に、一揆で命を落とした多くの農民や、お光が運んできた霧丸の亡骸を葬っていた。四郎たちを倒すことを改めて誓う十兵衛。そこに武蔵が現れ、決闘を申し込んできた。十兵衛は村正最後の妖刀を身に帯び、舟島へ向かう。おつうは武蔵に優しさを思い出させようと決闘の場で笛を奏でるが、武蔵はかつてのような動揺はせず、完全な魔界衆となっていた。十兵衛と武蔵の戦いが始まった。お互い浜辺を走り回り、幾度となく剣を交え、戦い続ける。そして十兵衛は、武蔵が振り下ろす櫂を躱して、高く飛び上がり、空中から脳天割りで武蔵を叩き斬った。武蔵は大刀小刀を出し、二刀流となるが、十兵衛はすぐに突きを繰り出し、止めを刺した。
急ぎ江戸城へ向かう十兵衛。城内では相変わらず家綱が、お玉の元に入り浸っていた。ところがお玉は寝言で忠興の名を口にしたため、嫉妬した家綱が詰問し出す。そして二人はもみ合っているうちに行灯を倒してしまった。寝所は瞬く間に炎に包まれた。打掛が燃え上がるのを見たお玉はガラシャに戻り、忠興との日々を思い出す。寝所は大火に囲まれたので、家綱は逃げようとするが、ガラシャは忠興と思い込んですがりつき、哄笑しながら錯乱し出す。大奥から江戸城天守閣や城全体に火の手は拡がる。
薙刀を振り回し、家綱を連れまわすガラシャに誰も止められず、騒然となる。老中は家綱を取り戻そうと、家来にガラシャを斬るよう命じるが、突如現れた宗矩がガラシャを守って、老中・幕臣達と次々斬っていく。その隙にガラシャは家綱と共に天守へと消えていく。二人きりの天守に現れた四郎は、家綱に島原の復讐であることを告げ、天草衆の遺髪で束ねた鞭で打つ。直後にガラシャは生前の未練を晴らすべく、家綱を道連れに火中に身を投じて無理心中する。江戸が紅蓮の炎で焼き尽くされていく喜びに四郎はうち震え、江戸城の焦熱は止まらず地獄のような状況で、宗矩は十兵衛を待ち焦がれていた。
猛火に包まれ、崩落する江戸城内に、編み笠を被った十兵衛光厳が父・宗矩の前に現れる。宗矩は十兵衛が笠を外した姿に驚愕。息子は身体を魔除けの梵字で埋め尽くしていた。十兵衛は骨肉を分けた親子が戦わなければならない不条理を嘆き、戦いを避けようと諭すが、宗矩は十兵衛の才能に一人の剣士として戦いたいと強弁したため、十兵衛は魔界衆となった父と望まぬ一騎打ちをすることとなる。同じ流派のため、構えも同じ。壮絶な死闘が始まった。五分に闘う二人だが、宗矩の尋常ならざる執念と力で、十兵衛の眼帯を斬られ、村正も折られ、窮地に追い込まれる。容赦なく十兵衛に真向斬りをする宗矩。十兵衛は宗矩の村正を、真剣白刃取りで辛うじて受け止める。九字「
十兵衛が父に涙していた直後、四郎が現れ、永遠の命を与えると魔界に誘う。が、十兵衛は永遠の命を信じず、人の弱みにつけこみ、宗矩と霧丸を弄んだ四郎の所業を許せんと拒む。四郎は日本中を業火で焼き尽くすと宣言したため、十兵衛と四郎の戦いが始まる。四郎は伊豆守や霧丸を葬った天草衆の遺髪を束ねた鞭で十兵衛を襲うが、十兵衛は左手で防御して躱す。そして右手に持っていた宗矩の村正で鞭を右切り上げ、四郎の頸を左薙ぎで一刀両断。しかし四郎は自分の頭を脇に抱え、復活を予告し、哄笑と共に紅蓮の炎の中に飛んで消えていく。十兵衛はそれを見据えながら、一層燃え上がる焦熱地獄の中、ただ独り佇んでいた。
出演
編集キャスト
編集※本作パンフレットに役名が掲載され、その表記順。
- 佳那晃子 - 細川ガラシャ夫人
- 緒形拳 - 宮本武蔵
- 室田日出男 - 宝蔵院胤舜
- 真田広之 - 伊賀の霧丸
- 松橋登 - 将軍家綱
- 成田三樹夫 - 松平伊豆守
- 大場順 - 柳生左門友矩
- 島英津夫 - 柳生又十郎宗冬
- 久保菜穂子 - 矢島の局
- 成瀬正 - 甲賀玄十郎
- 中村錦司 - 石田上総守
- 河合絃司 - 神尾備前守
- 川浪公次郎 - 松平隼人正
- 鈴木康弘 - 富田主膳
- 有川正治 - 伊崎平内
- 岩尾正隆 - 安井藤兵衛
- 内田朝雄 - 酒井雅楽頭
- 相馬剛三 - 阿部豊後守
- 丘路千 - 堀田備中守
- 角川春樹 - 板倉内膳正
- 中江英生 - 細川忠利
- 林三郎 - 水野勝成
- 小林将孝 - 戸田氏鉄
- 飛鳥裕子 - 甲賀くノ一
- 鈴木瑞穂 - 小笠原少斎
- 浜村純 - 茂左衛門
- 東竜子 - 茂左衛門妻女
- 梅沢昇 - 伊賀の長老
- 犬塚弘 - 宗五郎
- 秋山勝俊 - 与平
- 野口貴史 - 彦作
- 白川浩二郎 - 米十
- 高月忠 - 百姓
- 中島茂樹 - 百姓
- 赤羽明 - 百姓
- 吉沢高明 - 百姓
- 鄭美玲 - 百姓
- 丸平峯子 - 百姓
- 白石加代子 - 声
- カルロッタ池田 - 霊
- 畑中猛重 - 侍
- 中島葵 - 百姓女
- 三谷昇 - 旅僧
- 味方健 - 能シテ
- 味方団 - 能子方
- 谷田宗二郎 - 能ワキ
- 茂山あきら - 能アイ
- 神崎愛 - おつう
- 菊地優子 - お光
役名無し
編集※本作パンフレットに表記は無く、クレジットタイトルのみ表示。
スタッフ
編集主要スタッフ
編集※本作パンフレットに掲載されている順。
他スタッフ
編集※クレジットタイトルのみ表示。
製作
編集経緯
編集東映京都撮影所(以下、京撮)は『柳生一族の陰謀』以降、「これ」という一本を作れずに喘いでいた[25]。そんな折、角川春樹が大作映画の企画を東映に持ち込んでくる[25]。『復活の日』を製作中から角川は、『忍法魔界転生』を映画化したいと構想していた[2][26]。京撮のプロデューサーである翁長孝雄は「東映というのは、困ったときに救いの神が来るんですよ。あの時、角川さんが来てくれたのは大きかった」と証言している[25]。角川は『人間の証明』を東映東京撮影所で作っていたものの、京撮では未だに製作していなかった[25]。自社の角川書店で抱える山田風太郎の奇想天外な忍法小説を原作に、角川は「大掛かりな時代劇アクションを作ること」が狙いで、「国内で製作可能な撮影所は東映京都」と考えていた[25]。
監督は当初、五社英雄で決まっていた[27][28]。『闇の狩人』で五社は、エロティシズム・暴力・血しぶきを際立たせる演出をしており、角川はその手腕を評価し、本作に適役とオファーしたのだ[27]。しかし準備を半年ほど進めていた矢先[28]、五社が銃刀法違反で逮捕されてしまい、製作は一時頓挫することとなる[25]。
五社に代わり、深作欣二を『復活の日』に続いて起用した角川は、山田の『柳生忍法帖』と『おぼろ忍法帖(#小説)』を深作に用意した[25]。このときのやりとりを角川は、「『おぼろ忍法帖』を映画化したいと深作さんから申し出があり、ぼくは『忍法魔界転生』と主張し、互いに作品の面白さを伝えあっていた[2]。内容は同じなのにタイトルが…」と訝しがり[2]、ほどなく「同じ作品であることがわかり大笑いして、すぐ映画にしようと一致した」と語っている[2][26]。本作公開時に『魔界転生』と再改題された[29]。
キャスティング
編集千葉真一の柳生十兵衛光厳は[注釈 3]、原作の柳生衆と魔界衆の集団戦ではなく、十兵衛が独りで魔界衆を倒していくというアイデアを深作欣二が最初に示したことで早々に決定[5][30]。映画『柳生一族の陰謀』、テレビ時代劇『柳生一族の陰謀』・『柳生あばれ旅』に続き、千葉が十兵衛に扮する4度目の作品となった[30]。既に十八番と認知されていた十兵衛を千葉は[31][32][33][34]、本作で決定版とすべく役作りを重ねていく[26][30]。
プロデューサーはしっかりした人がほしいということで佐藤雅夫が担う[35]。佐藤は角川春樹から「キャストはできるだけ派手に」と注文をされていたので、十兵衛に千葉真一、その父・柳生但馬守宗矩に若山富三郎、宮本武蔵に緒形拳、天草四郎時貞に沢田研二と、多彩な豪華メンバーを集めた[29]。森宗意軒と四郎をまとめ[35][36]、首領を一人にするという脚色を山田風太郎は感心しており[36]、魔界衆の首領を沢田に配役することが決まった[30][35]。深作欣二は千葉十兵衛と沢田四郎を「我ながらいいキャスティング(笑)。そのためにも脚本の直しが大きな柱だった」と述べている[35]。魔人も計6人に抑え、ストーリーの展開が散漫にならぬようした[36]。男性のみの魔界衆ではインパクトに欠けるので、深作は原作に無い細川ガラシャ夫人を魔界衆へ加えた[36]。山田は「ガラシャは思いつかなかった」と脱帽している[36]。ガラシャは当初、松坂慶子を配役しようとしたが、松竹に拒まれたと深作は述べている[37]。
脚本
編集原作を全て映画化すると2時間15分では収まらないので、荒木又右衛門や田宮坊太郎など数々の登場人物を敢えて外しており、山田風太郎も「僕の小説だったら、魔界衆の編成を終えるまでで、映画が終わってしまう(笑)」と翻案に理解を示している[36]。深作欣二が時代劇を演出するのは『赤穂城断絶』以来で、萬屋錦之介の要望を受け入れた同作は従来通りの忠臣蔵となり、『柳生一族の陰謀』で新たな時代劇を創造した深作には忸怩たる思いが残っていた[38][39]。その無念を千葉真一の柳生十兵衛と山田の壮大な伝奇ロマンで、深作はリベンジしようと意気込んでいた[26][39][40]。
半年を費やして完成した脚本は、原作で詳細に描かれている魔界側のドラマを徹底して削り、柳生十兵衛と剣豪たちの決闘の連続を映画の見せ場に据えていた[29]。それぞれの殺陣は、深作欣二と殺陣師の菅原俊夫が話し合いを繰り返し、練っていく[41]。宮本武蔵を二刀流ではなく、巌流島で佐々木小次郎を打ち負かした櫂を使って戦わせるというアイデアを、菅原が進言する[42]。このような物語が大好きな深作は、「フィクションをどうリアルに描いていくか」と、楽しそうに本作を仕上げていった[26]。
撮影
編集約1年間の準備を経て、京撮の一角にある稲荷神社で無事完成を祈った後にクランクインした[43]。しかし菅原俊夫と共に宝蔵院流槍術の道場に通い[44]、槍の稽古をしていた宝蔵院胤舜の室田日出男が右足首を捻挫してしまう[43]。伊賀の霧丸に配役された真田広之は食あたりで入院し、細川ガラシャ夫人に抜擢された高瀬春奈がクランクイン直前に病気降板となった[43]。加えて複数の映画スタッフが事故・怪我を負うなど、予想外の出来事が次々勃発したため、角川春樹自ら神官となり、千葉真一・沢田研二以下の主要キャストと深作欣二以下スタッフが参列し、再び御祓いと御祭事が行われた[43]。
江戸城が紅蓮の炎に包まれるクライマックスは特撮による合成ではなく、京撮のスタジオ内に建てられたセットを[42]、実際に燃やして撮影された時代劇屈指の名シーンである[26][45]。通常の映画撮影では安全面を考慮し、火事のシーンで実際にセットを燃やさず、撮影用のバーナーとカメラアングルで、セット全体が燃えているように見せる[42]。深作欣二はバーナーで物足りないと思い、このシーンを最高の迫力で撮るために、セット全体を丸々燃やすと決意[46]。高岩淡を含めた撮影所員が総出で消火器を構え、消防車にも待機してもらっている[47]。しかもカメラはフィックスでなく、セットの中にレールを敷き、移動撮影にした[47]。固定して望遠レンズで写すよりも、撮影班も炎の中に入ることにより、迫力のある映像を残している[47]。
俳優・スタッフ共に命がけで臨んだ撮影が敢行され、ワンカット4時間位が頻繁にあった[45]。このような状況なので、撮影はNG無しが原則だったものの、千葉十兵衛の登場シーンでは、みるみるうちに鬘に塗りこんでいる鬢付油から煙が立ち上り、刀の鞘は燃え出していた[47]。消防班はできるだけ早く消したいと身構えていたが、深作欣二がなかなかOKを出さず、セットの足場は燃え、炎はスタジオ棟の3階にまで達しようとしていた[48]。豪火の中で行われた十兵衛と父・宗矩の決闘は、華麗で凄みのある戦いとして劇中最大の山場・名勝負となっている[26][30][49]。千葉真一や若山富三郎は扮装のまま水をかぶり、重くなった衣装を身に纏いながら戦いを演じたほか、気の遠くなるような長時間を千葉は紅蓮の炎の中に立ちつくし、沢田研二も手の甲を火傷するケガを負っていた[45]。休みなくレンズを覗き続けた長谷川清は炎で目がやられてしまい、シーン終盤には見ることができなくなっていた[48]。
千葉真一は柳生十兵衛の扮装を今までより野性味のあふれるものへと強調し、皮をあしらった衣裳も一際その荒さを目立たせるようにしている[45]。それに対して天草四郎の扮装は南蛮風の異様で生々しい華美を備えたものとし、十兵衛と四郎のコントラストに仕上げられている[30]。四郎の扮装をデザインした辻村ジュサブローは本作で初めて衣裳デザインを手掛け[4]、これは後のリメイクにも踏襲された。沢田研二は撮影以外のスケジュールを全てキャンセルし、この作品に専念[30]。魔界衆は全員、目に金色のコンタクトレンズを着けることで化け物らしさを表現し、若山富三郎は魔界衆で生き返った以降の宗矩の不気味さを、一切まばたきをしないという演技で表現した[49]。
原作に漂うエロティシズム・エゴイズム・バイオレンスを、深作欣二のダイナミックでスピーディーな演出で、映画として新たな作品に変身した。原作の「女性の腹を割って出てくる」という“魔界転生”を特撮で描けないことはなかったが、「きれいな絵を作りたい」という深作の意向により、本作では意識的に取り入れていない[36]。島原の乱で落城し、生首が並ぶシーンのほとんどが本物の人間を埋めており、背景を西方浄土の幻想的な茜色にし、死者がなぜ蘇るのか、蘇りたいのかを表現している[36]。四郎と伊賀の霧丸の接吻は脚本になく、深作が現場で突然言い出した演出である。
公開
編集日本国内の封切り公開は6月13日を初日と予定していたが、過去の作品がヒットしていないため、1週間早めて6日の6時から6週間、「666のオーメン」と称してロードショーされた[28]。1981年までの角川映画は配給収入が右肩下がりで前年の『復活の日』では7億円の赤字を計上しており、白井佳夫は「角川映画そのものが第一作以来大した物がない。キャッチフレーズを使った宣伝の派手な物量的大作にしか過ぎない」と評していたが[50]、公開するやいなや、東京都の東映直営映画館3館の前に朝早くから長蛇の列ができ、初日と2日目で2万5000人を動員[51]。観客層は6対4で女性のほうが多く、従来の男性客が多くを占める東映とは異なる動員をした[51]。初週の興行を「『魔界転生』に女性客殺到」という見出しで週刊誌は報道し、女性客を集めた同年2月に日本公開されていた『青春グラフィティ スニーカーぶる〜す』を挙げ、本作と並べて配給収入を予想している[51]。
海外では『Samurai Reincarnation』のタイトルで公開された。4年後の1985年には日本映画製作者連盟が台湾へ日本映画輸出を再開したときに[注釈 4]、『砂の器』『サンダカン八番娼館 望郷』 『先生のつうしんぼ』、そして本作の4本が大ヒットした[52]。中でも本作は1985年10月に一般公開されると、それまでの台湾映画興行で同国記録を更新する歴代最大のヒットを記録した[53]。
1983年4月1日時代劇スペシャル (フジテレビ) で、オリジナル解説VTR付きでTV初放送された。
後世への影響(1981年)
編集クエンティン・タランティーノの作品や、『アベンジャーズ (2012年の映画) 』でサミュエル・L・ジャクソンは自身が演じたキャラクターに千葉真一の柳生十兵衛を取り入れるなど後世の作品にも影響を及ぼし[54]、秋山幸二は「あなたにとってサムライとは?」という問いに「千葉真一の柳生十兵衛は、生きるか死ぬか究極の真剣勝負というイメージがいい」と評するなど[55]、千葉十兵衛は根強い人気がある[54][55]。眞栄田郷敦は「子どものころ、唯一父(千葉真一)と一緒に観た映画です。ぶっ飛んだ演出なのに緊張感がすごい。大人になってからあらためて観ても、すごい映画だと思いました」と語っている[56]。
時代劇専門チャンネルは本作を「千葉真一の殺陣の凄みを最も堪能でき、千葉の殺陣の引き出しの多さに驚かされる。若山富三郎との一騎打ちは、お互いの身体能力をぶつけ合った時代劇史に残る死闘となっている[57]」と評している。春日太一は「本来なら、対戦があり得ないはずの剣豪同士の対決が、実現している。全て好カードだが、中でも柳生親子の決闘は、千葉真一が若山富三郎から殺陣を教わっていたので、役者としても師弟対決であり、新旧アクションの名手対決であり、ワクワク要素満載の最高の対戦カードとなっている。決闘の前にお互い必殺技を身につけ[注釈 5]、両雄は対峙する。同じ流派なので、刀の構えからタイミングまで、全てが同じ。双方の互角感が映像から伝わってきて、ド迫力の決闘になっている」と、チャンバラの魅力を存分に堪能できる作品と述べている[49]。
山田風太郎全作品を網羅したデータブックで夏葉薫は「深作欣二の代表作のひとつ。主演は柳生十兵衛役の千葉真一だが、ファンは皆この作品を『ジュリーの魔界転生』と呼ぶ。それほど天草四郎役の沢田研二は光っていた」と紹介している[58]。テレビCMでは四郎が唱える「エロイム・エッサイム」が流され、子供達の間でも流行り言葉になったという[51]。三谷幸喜は『真田丸 (NHK大河ドラマ)』で大坂の陣に参戦したキリシタン武将明石全登を演じる小林顕作に「映画『魔界転生』のジュリー(沢田研二)のように」と演技指示を出し[59]、中田譲治は『超獣戦隊ライブマン』の敵幹部、大教授ビアスに扮した際の演技イメージ作りに『ラビリンス/魔王の迷宮』でのデビッド・ボウイと並べて「魔界転生の沢田研二」を取り入れたと語っている[60]。
『ドリフターズ (漫画)』第3巻のカバー裏オマケで平野耕太は天草四郎をキャラクター化し、本作のラストシーン同様、自分の生首を脇に抱え哄笑する首無し武者のデザインで描いているが、脇に添えられたキャラ解説は「ジュリー版とクボヅカ版で強さが100倍違う」「真田広之逃げて、超逃げて[注釈 6]」「サニー千葉 with ムラマサで[注釈 7]、やっとどうにかなるレベル」と[61]、平野が何の補足説明もなく1981年・2003年の映画の感想を綴る内容になっていた。青山剛昌は少年剣士・鉄刃が妖怪じみた老翁・剣聖宮本武蔵に弟子入りし、悪鬼に呑まれたライバル剣士や現代に蘇った佐々木小次郎、柳生十兵衛、天草四郎や風魔小太郎に松尾芭蕉、沖田総司の6代目子孫、果ては地底人や宇宙人など古今東西の強敵と戦う『YAIBA』のインスピレーション元になった映画として本作を挙げている[62]。
ゲームソフトでは青山剛昌がキャラクターデザインも行い、本作フォロワー描写を登場させた『ライブ・ア・ライブ[注釈 8]』幕末編、『装甲悪鬼村正・魔界編[注釈 9]』、天草四郎時貞 (サムライスピリッツ)[14]、などサブカルチャー分野でもフォロワーを生んでいる。2013年の『真・女神転生IV』に登場する天草四郎時貞モデルのキャラクター「英傑トキサダ」の自分の生首を脇に抱えたデザインなど、映画のラストシーンで妖刀村正を携えた柳生十兵衛との決闘で刎ねられた自分の頭部を脇に抱え哄笑する天草四郎のヴィジュアルをパロディしたフォロワー作品もある。『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚- (アニメ)』島原編の天草翔伍のデザインは、和月伸宏が本作のファンという事もあり、『サムライスピリッツ』版の天草四郎の流れを受けたデザインになっている。
サウンドトラック
編集- 魔界転生 オリジナル・サウンドトラック(2020年12月30日/CINEMA-KAN/規格番号CINK-113)- 映画本編では未使用のイメージ曲も収録されている。
2003年
編集魔界転生 (2003) | |
---|---|
監督 | 平山秀幸 |
脚本 | 奥寺佐渡子 |
出演者 |
窪塚洋介 麻生久美子 長塚京三 古田新太 加藤雅也 佐藤浩市 |
音楽 | 安川午朗 |
撮影 | 柳島克巳 |
編集 |
川島章正 洲崎千恵子 |
配給 | 東映 |
公開 | 2003年4月26日 |
上映時間 | 105分 |
製作国 | 日本 |
言語 | 日本語 |
興行収入 | 6.4億円[63] |
ストーリー(2003年)
編集島原の乱で死んだ天草四郎時貞が従者のクララお品を従え、堕天使のごとく復活した。10年ほど後、3代将軍徳川家光の時代、徳川幕府滅亡を志す四郎は鷹狩りに来ていた野心家の徳川頼宣を挑発する。彼に秘術を使って蘇らせた配下の現世に無念を抱く魔界衆荒木又右衛門、宮本武蔵、宝蔵院胤舜を差し向ける。又右衛門の襲撃を期に柳生十兵衛を始めとするお雛、伊達小三郎の柳生衆は秘術の生贄に誘拐されたおひろを追って戦いに参加する。戦いで魔界衆を破られた四郎はさらにクララお品の身体を使い徳川家康までも転生させる。
キャスト(2003年)
編集スタッフ(2003年)
編集- 監督 - 平山秀幸
- 脚本 - 奥寺佐渡子
- 音楽 - 安川午朗
- コンセプチュアル・デザイン - 寺田克也
- 衣装デザイン - ホリ・ヒロシ
- 撮影 - 柳島克巳
- 照明 - 杉本崇
- 録音 - 松陰信彦
- 音響効果 - 柴崎憲治
- 整音 - 瀬川徹夫
- 助監督 - 中川裕介・古田和弘・濱龍也
- 特殊造型スーパーバイザー - 原口智生
- 操演・特殊効果 - 岸浦秀一
- 技斗 - 清家三彦
- スタントコーディネーター - 中村健人(ジャパンアクションエンタープライズ)
- スタント - 稲田龍雄・夏山剛一・野々村仁・越中晃一・大久保幸治
- 特撮監督 - 佛田洋
- 現像 - 東映ラボ・テック
- 製作協力 - 東映京都撮影所
- 企画 - 遠藤茂行・大川裕・奥田誠治
- プロデュース - 天野和人・赤井淳司・佐藤敦・妹尾啓太・出目宏
製作(2003年)
編集1981年版で特撮を担当した矢島信男の弟子である佛田洋が特技監督を務めた[64]。視覚効果統括の橋本満明は合成会社でのアルバイト時代に1981年版に携わっている[65]。デジタル技術の向上により、1981年版では描写されなかった原作のシーンが映像化されている[66]。
原作の魔界転生をCGで再現しており、性的描写はないが女の身体が割れて魔界衆が誕生する様子が描写される。佛田は原作に寄せるというコンセプトから性的描写を構想していたが、平山秀幸に却下された[64]。転生シーンの描写案は難航し、撮影中盤以降になって決定された[65]。
クライマックスの江戸城崩壊は佛田と橋本の案により、江戸城に十字の亀裂が入るという描写になった[64]。佛田は1981年版を担当した矢島から「前と同じことをやっても仕方ないから、今の技術で違うことを考えろ」と言われていたという[64]。平山の江戸城を再現するという意向により、時代劇では一般的な姫路城を用いた実景ではなくミニチュアで撮影された[64]。
このほか魔界衆の目が十字架のように変わり、1981年の映画では描写されなかった「島原の乱」の合戦シーンがあり、竹田城で撮影された。十兵衛は隻眼ではなく、後に変化する。平山のイメージ案としてギュスターヴ・ドレによる『神曲』の挿絵をモチーフとした「翼の生えた天草四郎」があり[65]、寺田克也によるイメージビジュアルなどに取り入れられている[66]。
公開(2003年)
編集全国230劇場で公開され[67]、2003年4月26日・27日の全国週末興行成績(興行通信社)には観客動員数8位で初登場する[68][注釈 10]。やや期待外れの出足であり、『RED SHADOW 赤影』(2001年)の興収7億円前後を目指すスタートとなった[68]。公開2週目は10位[69]。最終興行収入は6.4億円となった[63]。本作は前年に東映の社長に就任した岡田裕介が社運をかけて製作したものの、『RED SHADOW 赤影』に続き、大コケした大作映画の1本と評されている[70]。
演劇
編集1981年(演劇)
編集タイトルは『柳生十兵衛 魔界転生』。#1981年の映画を演劇化した作品で「天草四郎は女であった」と新たな設定が加わり、志穂美悦子が演じている。同時上演は『スタントマン物語』(演出:千葉真一、企画監修:深作欣二、脚本:青井陽治、出演:真田広之・志穂美悦子)。千葉・志穂美・真田はこれが本格的な演劇出演であり、公演も第1回JACミュージカルと銘打たれていた。千葉はこれ以降ミュージカルを毎年企画・演出・主演し、1982年・1983年・1984年には『ゆかいな海賊大冒険』、1985年には『酔いどれ公爵』を上演していく。
キャスト(演劇)
編集スタッフ(演劇)
編集上演日程
編集2006年
編集原作寄りの内容だが、魔界衆の総大将は2006年以前の映画・演劇・Vシネマ同様に天草四郎としている。
キャスト(2006年)
編集スタッフ(2006年)
編集上演日程(2006年)
編集2009年
編集劇団キリン食堂第6回公演[71]。
キャスト(2009年)
編集ゲスト
編集スタッフ(2009年)
編集- 脚本・演出 - 久保田誠二
- 製作 - 劇団キリン食堂
上演日程(2009年)
編集2010年
編集俳優集団・志道塾第8回プロデュース公演[72]。
キャスト(2010年)
編集- 柳生十兵衛 – 南保大樹
- 柳生但馬 – 大田行雄
- 天草四郎 – 池谷将之
- 宮本武蔵 – 高橋聡
- 宝蔵院胤舜 – 山田顕一
- 荒木又右衛門 – 井上彰宏
- お品 – 松本佐知子
- お篠 – 岡田亜紀子
- お比呂 – 田村友紀
- お縫い – 竹澤希里
- 海斗 – 三島亮太
- 又吉 – 木村勇太
- 佐平 – 城田忠尚
- あかね – 工藤沙織
- 徳川頼宣 – 水野駿太朗
- 牧野兵庫頭 – 坂根直樹
- 松平伊豆守 – 長友倫夫
スタッフ(2010年)
編集- 脚本・演出 – 大田行雄
- 製作 – SHIDOエンタープライズ
上演日程(2010年)
編集2011年
編集劇団ヘロヘロQカムパニー第25回公演。敵方の総大将を天草四郎にする流れを踏襲しつつ、オリジナルの解釈が加えられている。
ストーリー(2011年)
編集この節にあるあらすじは作品内容に比して不十分です。 |
時は徳川家光の時代。「島原の乱」終結に端を発し、徳川への復讐に燃える天草四郎の手によって、忍法「魔界転生」で名だたる剣豪たちがよみがえり、稀代の剣豪と言われる柳生十兵衛と柳生七人衆が迎え撃つ。紀州和歌山を舞台に、両陣営の血で血を洗う戦いが繰り広げられる。
キャスト(2011年)
編集- 柳生十兵衛 – 関智一
- 天草四郎 – 浪川大輔
- 柳生但馬守 – 楠見尚己
- 宮本武蔵 – 中博史
- 宝蔵院胤舜 – 中川歩
- 荒木又右衛門 – 小西克幸
- 田宮坊太郎 – 置鮎龍太郎
- クララお品 – 長沢美樹
- ベアトリスお銭 – 林智子
- フランチェスカお蝶 – 安藤彩絵
- おひろ – 那珂村タカコ
- お雛 – 松本和子
- お縫 – 杉崎聡美
- 戸田五太夫 – 魚建
- 逸見瀬兵衛 – 松浦俊秀
- 北条主税 – おぐらとしひろ
- 小栗丈馬 – 下川真矢
- 伊達左十郎 – 上田伸哉
- 三枝麻右衛門 – 近藤浩徳
- 平岡慶之助 – 宇藤秀和
- 木村助九郎 – 藤田けん
- 関口柔心 – 志賀克也
- 牧野兵庫頭 – 永松寛隆
- 柳生主膳 – 高橋佑一郎
- 陣野助左衛門 – 岩上弘数
- マルコス – 大谷秀一郎
- 十兵衛幼少期 – 山口和也
- 正重 – 正野大輔
- お光 – 盛田瑞恵
- お絢 – 間藤絢子
- お凛 – 車谷絵里
- 女1 – 藤井京子
- 女2 – 加藤杏奈
- 女3 – 久保梨瑛
- 女4 – 進藤初香
- 切支丹農民 – 鳩岡大輔
- 切支丹農民 – 飯田誠規
- 家来 – 影本将志
- 家来 – 岩崎諒太
- 家来 – 高橋信
- 根来衆 – 広森春樹
- 根来衆 – 柴田大吾
- 紀州大納言 徳川頼宣 – 中嶋宏幸
- 伊豆守 松平信綱 – 益城宏
- ナレーション – 永井一郎
スタッフ(2011年)
編集- 脚本・演出 – 関智一
- 演出協力 – 中博史
- 製作 – 劇団ヘロヘロQカムパニー・八田麻衣子
上演日程(2011年)
編集2013年
編集キャスト(2013年)
編集- 柄谷吾史
- 田中照人
- 松木賢三
- 加藤巨樹
- 武原広幸
- 飯泉学
ゲスト(2013年)
編集スタッフ(2013年)
編集- 脚本・演出 – 吉谷光太郎
- 音楽 – tak
- 振付 – MAMORU
- 殺陣 – 奥住英明(T.P.O.)
- 舞台監督 – ソマリ工房
- 美術 – ソマリ工房
- 照明 – 奥村誠志郎
- 音響 – 相川幸恵
- 衣装 – 車杏里
- ヘアメイク – earch
- プロデューサー – 坂享宣
- 企画・制作 – クリエイティヴ零
上演日程(2013年)
編集2018年
編集日本テレビの開局65周年を記念しての公演であり[75]、同じくマキノノゾミ脚本・堤幸彦演出の『真田十勇士 (2014年の劇作品)』の続編的な要素が満載の作品となっている[76]。
キャスト(2018年)
編集スタッフ(2018年)
編集上演日程(2018年)
編集2021年
編集2018年版の再演[77]。再演にあたって、メインスタッフはそのまま、キャストは変更もあるが続投もいる。
キャスト(2021年)
編集スタッフ(2021年)
編集- 企画・製作 – 日本テレビ
- 脚本 – マキノノゾミ
- 演出 – 堤幸彦
- 音楽 – ガブリエル・ロベルト
- 美術 – 松井るみ
- 照明 – 高見和義
- 音響 – 井上正弘
- 衣裳 – 宮本宣子
- ヘアメイク – 川端富生
- 映像 – 高橋洋人
- ステージング – 広崎うらん
- 殺陣 – 諸鍛冶裕太
- 演出助手 – 松森望宏
- 舞台監督 – 小川亘
- プロデューサー – 松村英幹
上演日程(2021年)
編集漫画
編集魔界転生(石川賢)
編集1987年、作画は石川賢。自ら山田風太郎原作で描きたいと角川に打診し、『甲賀忍法帖』を希望したところ、過去に角川で映画化された本作を指定されたという。山田からの要望による縛りが一切無かったことから、石川賢の個性的なアレンジで全くの別物に仕上がっている[80]。主な相違点として、魔界衆は幕府転覆も目論むが、真の目的は魔界と魔王サタンの現世への召喚である。そのため、天草四郎がサタンの一部分という設定で魔界衆の首魁になっている他、原作では転生しない徳川頼宣が転生し、柳生如雲斎の登場がない。魔界転生の素体となる女たちも、クララお品とベアトリスお銭は登場せず、ベアトリスお品とクララお清となり、役回りにも違いが見られる。
魔界転生(とみ新蔵)
編集作画はとみ新蔵。前半は原作を踏襲した漫画化。後半よりオリジナル展開。
魔界転生―夢の跡(鳥羽笙子)
編集全2巻。2003年版の映画に合わせて角川系列の少女漫画誌で連載された。導入と終盤こそ1981年版映画をベースにして天草四郎を首魁にする流れを踏襲しているが、森宗意軒と由比正雪が天草四郎に随伴しているなど原作要素も取り入れられている。
魔界衆の中で一人だけ人の心を残したまま魔界衆になったというオリジナル設定のもと田宮坊太郎を主人公に据え、江戸城本丸の決戦まで坊太郎を生き残らせるアレンジが加わっている。
天草四郎側に付く小西行長の血筋の子供「お類」(名は『魔界転生』原作版田宮坊太郎の想い人と同一だが、名前以外は完全に『夢の跡』オリジナルキャラクター)が天草四郎・田宮坊太郎とおひろ・十兵衛それぞれに関わる。坊太郎とお類の交流は1981年版映画における伊賀の霧丸とお光のそれを彷彿させる描写になっている。
お雛とおひろの役割も原作と大きく異なり、おひろは生前の坊太郎の想い人(本編では既に故人)・お雛はおひろに生き写しの実妹という役回りになっている。
魔界転生―聖者(ベアト)の行進(九後奈緒子)
編集全1巻。2003年版の映画に合わせて角川系列の少女漫画誌『月刊ASUKA』で連載された。全3話の短期連載のためか、登場する魔界衆は天草四郎、宮本武蔵、柳生宗矩のみの超ダイジェスト版。掲載誌のカラー故か森宗意軒と天草四郎、天草四郎と柳生十兵衛の間にボーイズラブ調の脚色が加わり、男性キャラクター同士の執着と愛憎劇が主体になっている。
十 〜忍法魔界転生〜
編集原作をほぼ踏襲し、漫画化された。
Vシネマ
編集概要
編集The ARMAGEDDONというサブタイトルがつく二部構成でリリースされた。第1部の正編から第2部の魔道変まで、魔界衆・妖怪たちとの対決を描く。森宗意軒は登場せず、由比正雪が首領で、天草四郎は原作どおり配下の一人となる。撮影は長谷川清が#1981年の映画に引き続き、参加している。第1部は1996年4月26日発売、85分。第2部は同年10月4日発売、83分。
ストーリー(Vシネマ)
編集魔界からの使者、由比正雪は覇権を狙う徳川頼宣のもと、天草四郎、宝蔵院胤舜、荒木又右衛門、柳生宗矩、宮本武蔵などの7人を魔界衆として復活させる。柳生十兵衛がその陰謀に挑む。
キャスト(Vシネマ)
編集スタッフ(Vシネマ)
編集- 製作 - ギャガ・コミュニケーションズ、ジャングル
- 監督 - 白井政一
- 脚本 - 菊地昭典
- 製作者 - 山地浩
- 企画 - 内藤三郎
- プロデューサー - 千葉善紀・角田昇・小野正
- 音楽 - 中川孝・坂元幸
- 撮影 - 長谷川清
- 特殊メイク - 江川悦子(メイクアップディメンションズ)
- 殺陣 - 高倉英二
- VTR編集 - パークタワーウエスト
- MA - 映広
- 現像・テレシネ - 東映化学
- 協力 - 日光江戸村、会津若松市観光課、会津若松市観光公社
- ビデオ販売 - 徳間ジャパンコミュニケーションズ
アニメ
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1998年、アミューズビデオによりOVAとしてアニメ化。「地獄篇 第一歌」「地獄篇 第二歌」の2作が発売されている。当初は全4巻の予定だったが、製作取り止めとなったため、未完となっている。
十兵衛が公儀隠密として島原の乱に参加しており、城に乗り込んできた彼に対して、四郎は自らの首級と引き換えに城の女子供たちの助命を依頼。
快諾する十兵衛だったが、宗意軒の策略により決裂、壮絶な死闘の末に十兵衛に敗れた四郎は怨嗟の言葉を遺して死亡するという、四郎と十兵衛との間に個人的因縁を生じさせる独自の展開になっている。
キャスト(アニメ)
編集- 柳生十兵衛 - 玄田哲章
- 天草四郎 - 置鮎龍太郎
- 森宗意軒 - 納谷悟朗
- 田宮坊太郎 - 塩沢兼人
- 宮本武蔵 - 阪脩
- 荒木又右衛門 - 若本規夫
- 柳生但馬守 - 山野史人
- 沢庵和尚 - 大木民夫
- 関口柔心 - 青野武
- 宝蔵院胤瞬 - 天田益男
- 由井正雪 - 安井邦彦
- 伊達左十四 - 大友龍三郎
- お蝶 - 安藤ありさ
- お蝶の子供時代 - 根谷美智子
- お京、お雛 - 岡本麻弥
- 磯千八 - 龍田直樹
- 金丸 - 中村大樹
- お縫 - 丹下桜
- 松平信綱 - 有本欽隆
- 戸田五太夫 - 筈見純
- 山中鉄斎 - 幹本雄之
- 弥太郎 - 真柴摩利
- 武蔵の従者 - 河合義雄
- 柳生の男 - 長嶝高士
- 姉 - 大塚瑞恵
- 弟 - 大谷育江
- 役人 - 中博史
- ナレーション - 中田浩二
スタッフ(アニメ)
編集- 監督 - 浦田保則
- 脚本・音響監督 - 伊達憲星
- 絵コンテ - 羽山賢二、浦田保則
- 総作画監督 - 佐藤敬一
- 作画監督 - 羽山賢二、松山光治、橋本義美
- キャラクターデザイン - 佐藤敬一、羽山賢二
- 美術監督 - 勝又激
- 美術設定 - 白山忠之
- 色彩設計 - 脇喜代子
- 撮影監督 - 安原吉晃
- 編集 - 福元伸一
- 音響協力 - 本田保則
- 録音 - 阿部幸男
- 効果 - 今野康之
- 音楽 - 天野正道
- 演奏 - ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団
- 録音・MA - アバコクリエイティブスタジオ
- 編集 - タバック
- 現像 - 東映化学
- プロデュース - 財前健一郎、大西敏樹
- 製作者 - 宮下昌幸
- 企画・総合プロデューサー - 山木泰人
- アニメーション制作 - フェニックス・エンタテインメント
- 製作 - アミューズビデオ
ゲーム
編集ローグライクゲームで、2003年7月31日にPS2専用ソフトとして発売された。開発はタムソフト、販売はディースリー・パブリッシャー。発売に際し日枝神社にて、厄除け祈願が行われている[81]。2003年版映画がベースになっており、秘術の生贄に誘拐されたヒロイン・おひろを救出するため戦いに身を投じた柳生十兵衛を操作し、ゲームを攻略していく。魔界衆を統べる首魁が天草四郎とクララお品のカップル、おひろとお雛が双子の姉妹になっているなどの独自アレンジが加わっている。
キャスト(ゲーム)
編集イベント
編集参考文献
編集※異なる頁を複数参照をしている文献のみ。発表年順。
- 『魔界転生』東映株式会社映像事業部、1981年6月6日。ASIN B004HHRTQ0。
- 『宇宙船』Vol.106(2003年5月号)、朝日ソノラマ、2003年5月1日、雑誌コード:01843-05。
- 深作欣二、山根貞男『映画監督 深作欣二』(第1刷)ワイズ出版、2003年7月12日。ISBN 489830155X。OCLC 674824011。
- 青木逸美・秋山新・宇佐美尚也・日下三蔵・小池啓介・高橋義和・中村優紀・夏葉薰・森本陽・山本豪志 著、小此木哲朗 編『幻妖 山田風太郎全仕事』(初版)一迅社〈一迅社ビジュアルBOOKシリーズ〉、2007年4月15日。ISBN 978-4-7580-1075-7。OCLC 676627579。C0495。
- 春日太一『あかんやつら 東映京都撮影所血風録』(第1刷)文藝春秋、2013年11月15日。ISBN 4163768106。 NCID BB14126380。OCLC 952394433。
脚注
編集注釈
編集- ^ 共通する剣豪は柳生十兵衛、柳生但馬守、柳生如雲斎、宮本武蔵、荒木又右衛門など。
- ^ 中川右介は「キャストや映画のシーンは豪華だったが、抑えられた製作費になった」と書いているが[21]、深作欣二はクライマックスの業火以外、それほどお金を費やさず、既存のセットや道具でやりくりしたと述べている[22]。
- ^ a b c d 柳生十兵衛光厳の「光厳」だが、「三厳」ではなく「光厳」と、本作パンフレットの登場人物紹介や[23]、キャスト一覧に[24]、それぞれ表記されているため、当該記事もこれに則った。
- ^ 1972年の日中国交正常化以降、1973年から台湾への映画輸出は禁止されてきた[52][53]。
- ^ 宗矩は自分より剣の実力で勝る十兵衛に勝つために、魔界に魂を売って無敵の力を手に入れる[49]。十兵衛は妖刀村正を手にし、全身に梵字を書き入れ、魔力を封じ込める[49]。
- ^ 伊賀の霧丸が天草四郎に接吻された。
- ^ 柳生十兵衛は妖刀村正を駆使して、天草四郎の頸を刎ねた。
- ^ 『ライブ・ア・ライブ』幕末編の内容も、悪魔に魂を売り渡した藩主に誘拐された維新の要人を救出する密命を負った「炎魔忍軍」の若き忍者が魔窟となった城内に潜入し、幕末の世に蘇り不死を自称する天草四郎、淀君の怨霊や強敵を求めて彷徨う宮本武蔵の亡霊と戦うほか、最強武器が「むらまさ」など『魔界転生』のストーリーを彷彿させるものになっている。
- ^ 『装甲悪鬼村正・魔界編』は時代を越えて召喚された13人の剣客と『装甲悪鬼村正』本編主人公との死闘を描く筋書き。召喚される歴史上の英雄の顔ぶれに天草四郎や細川珠、柳生十兵衛などが抜擢され、最終戦を宮本武蔵との浜辺での決闘で締めくくっているなど、タイトル通り作品そのものが原作と本作のオマージュになっている。
- ^ Box Office Mojo(ドル表記)によれば興行収入ベースでは初登場5位(81.6万ドル)となっている[67]。
出典
編集- ^ a b 1981年配給収入10億円以上番組 - 日本映画製作者連盟
- ^ a b c d e f g h 「あなたは魔界を信じますか?[角川春樹(製作者)山田風太郎(原作者)]特別対談」、21頁。
- ^ 伊藤昭「1979年の山田風太郎 単行本未収録インタビュー再録『山風、自作を語る -大正から昭和まで書ければいい』」、75頁。
- ^ a b 「解説」、6 - 7頁。
- ^ a b 「魔界転生」『第十一章 大作映画の悪戦苦闘』、387 - 388頁。
- ^ 「全39冊!忍法帖作品完成ガイド Column4 微妙に読者泣かせのタイトル変遷」、33頁。
- ^ a b c d 「風太郎忍法帖―ゲームの規則(「魔界転生」〈特集〉)『キネマ旬報』1981年6月1日号、通巻812号、58 - 60頁。
- ^ 『風太郎忍法帖』『文藝別冊 山田風太郎・綺想の歴史ロマン作家』、2001年10月、河出書房新社。
- ^ 牧野悠「剣豪、もし闘わば〜山田風太郎「魔界転生」のマッチメイク」『昭和文学研究 第63集』、昭和文学会、26 - 37頁。
- ^ a b 加瀬健治『武蔵文化論群 No.11』「武蔵を斬る十兵衛〜パロディとしての山田風太郎『魔界転生』」、13頁。
- ^ 『山田風太郎全集 月報』講談社、1971年10月 - 1973年1月、高木彬光「風を視る」。
- ^ 角川文庫『魔界転生 下巻』解説。
- ^ 大東亜忍法帖【完全版】
- ^ a b アスペクト社 『サムライスピリッツ斬紅郎無双剣 究極趣味草紙』Q&Aコーナー「天草四郎のモデルは魔界転生の沢田研二ですか?」
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- ^ a b c “「FGO」の新シナリオが『魔界転生』のパクリ?→いやいやちょっと落ち着こう、という話 - ねとらぼ” (2017年10月22日). 2018年1月19日閲覧。
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- ^ 『Fate Prototype Tribute Phantasm』(p.38) 2012年 KADOKAWA
- ^ 「魔界版セイバー」イラスト
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- ^ ペリー荻野 (2009年7月31日). “『徳川無頼帳』西城秀樹の十兵衛とJJサニー千葉が握手!強力コンビが吉原を根城に大暴れ。”. 時代劇専門チャンネル. ペリーのちょんまげ. 日本映画放送. 2012年3月31日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年3月31日閲覧。
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- ^ 「全登は徐々に『魔界転生』のジュリーみたいになっていきます」小林顕作(明石全登)【真田丸インタビュー】2016年10月8日 / 08:00 tvfan 共同通信社
- ^ 午後0:58・2018年2月27日 中田譲治Twitter @joujinakata123
- ^ 『ドリフターズ』3巻 平野耕太 少年画報社
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- ^ “村井良大、舞台『魔界転生』で『真田十勇士』に続き根津甚八役に 浅野ゆう子との“親子”共演も”. (2018年6月19日) 2020年12月28日閲覧。
- ^ “上川隆也主演、舞台「魔界転生」の再演が決定 小池徹平と初共演”. WEBザテレビジョン (KADOKAWA). (2020年11月26日) 2021年1月10日閲覧。
- ^ “舞台「魔界転生」16日まで休演 関係者10人のコロナ感染も判明”. SANSPO.COM (産経デジタル). (2021年5月9日) 2021年5月9日閲覧。
- ^ “大阪公演 上演及び一部休演のお知らせ”. 日本テレビ. 2021年12月5日閲覧。
- ^ 石川賢 『魔界転生』文庫版あとがき、講談社、1998年。
- ^ 最新祝詞選集 第2巻 『特殊祈願祭祝詞』 戎光祥出版、平成19年、226 - 227頁。
外部リンク
編集- 魔界転生 - 東映チャンネル
- 魔界転生 - allcinema
- 魔界転生 - KINENOTE
- Samurai Reincarnation - オールムービー
- Samurai Reincarnation - IMDb
- Vシネマ - GAGAホームページ
- 魔界転生 (2003) - allcinema
- 魔界転生 (2003) - KINENOTE
- 魔界転生 (2003) - IMDb
- 魔界転生2003 - goo映画
- 魔界転生2003 - @nifty映画作品情報[リンク切れ]