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放射能兵器

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

放射能兵器(ほうしゃのうへいき、: Radiological weapon)とは、放射性物質 (Radioactive materials) を散布、放射能汚染を引き起こし、それに伴う放射線被曝によって機材の使用阻害や人員の殺傷を図る兵器[1][2][3]CBRN兵器のうち'R'兵器であり[2]、放射能兵器自体は1948年の国連軍縮委員会をはじめとして大量破壊兵器に分類されている[4][3][5][6][7]。これらのうち、汚い爆弾 (dirty bomb) や放射性物質散布装置 (Radiological Dispersion Device, RDD) 等、核爆発を伴わないタイプ[3][8]については、典型的な大量破壊兵器には当てはまらないとする考えもある[8][9]。特殊な事例としては、ロシアが放射性物質ポロニウム210を用いて、アレクサンドル・リトビネンコを暗殺した例がある[10]

概要

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放射能兵器は、放射線を用いた兵器であり、通常の核兵器の使用においても、核爆発生じる効果により、初期放射線放射性降下物が発生し、放射線による殺傷能力を有する部分がある[2][9]。ただし、核兵器では、放射線のほか、熱線・爆風によっても多大な影響が生じる点が異なる[2][9]。なお、核兵器の中でも、残留放射能を高め、使用後の土地・建物利用を困難にするコバルト爆弾英語版が構想されていたことがあり、これも放射能兵器に分類されることがある[11]。今のところ、放射能兵器は、実際に使用されたことが無く、その存在も想定上のものに留まっている[9]

放射能兵器としては、汚い爆弾 (dirty bomb) や放射性物質散布装置 (Radiological Dispersion Device, RDD) と呼ばれる放射性物質を通常の爆薬による爆発でもって広範囲に拡散させたり、非爆発的手法でもって散布させたりする兵器・装置が良くあげられる[7][12][13]核テロリズムによる汚い爆弾や放射性物質散布装置の使用が懸念されている[13][14]

1980年代から1990年代にかけては、ジュネーブ軍縮会議において討議の対象となっていた[1]。米ソ両国を中心に核爆発を伴わない放射性物質を利用する兵器を、核兵器とは別の放射能兵器として区別し、それを制限することが俎上に載ったが、核兵器の合法性との絡みもあり、合意には至らなかった[1]

典型的な核兵器と放射能兵器[1][2][9]
典型的な核兵器 放射能兵器
放射線の影響 あり あり
放射線発生源 核爆発による初期放射線及び放射性降下物 放射性物質
熱線・爆風の影響 小 または なし

歴史

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アメリカでは原子爆弾開発時に、放射性物質の兵器としての可能性に気付き、放射能汚染による都市攻撃兵器としての検討を行っていた[15]。ただし、1954年頃までに核兵器開発に重点が置かれ、放射能兵器開発は中止されている[15]。また、朝鮮戦争中にダグラス・マッカーサーは、中朝国境地帯に放射性コバルトを散布し、無人地帯を形成することを検討していた[16][17]

効果など

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核兵器に用いられる放射性物質は、ウラン235プルトニウム239が主であるが、放射能兵器にはストロンチウム90セシウム137も利用される可能性があるとされている[18]

放射性物質を起源とする放射線による殺傷効果は、疑わしい面があり、心理的な恐怖感による影響が大きいと考えられている[9][14][19]。放射線によって汚染された地域が利用不能となるうえ、その地域の除染には多大な費用が掛かり、パニックの誘発が懸念されるが[7]、WHOによる想定される一般的な「汚い爆弾」に対する評価では、爆弾の爆発それ自身の方が重大な危険であり、専門技術者が放射性物質を適切に扱えるのを見ても分かるように、放射線による健康障害のリスクは低く見積もられる[9]

放射線兵器としての放射性物質の散布や接触の形式としては、1-単純な放射性物質の暴露、2-放射性物質の散布、3-エアロゾルとしての散布、4-放射性物質の摂取、5-放射性物質の浸潤の大きく5種類が挙げられている[18]

その他

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砲弾の一種である劣化ウラン弾には、密度が高く重量が極めて重いという弾体に向いた特性ならびに材料コストが極めて安いという理由から、低レベル放射性廃棄物である劣化ウランが用いられている[20]。劣化ウラン弾の使用を巡っては、その放射線や毒性から、健康被害が指摘されている[20]。こうした健康被害を根拠として、日本では劣化ウラン弾を放射能兵器と呼んでいる事例が存在する[21]

脚注

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出典

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  1. ^ a b c d Yearbook of International Humanitarian Law. Springer. (2014). p. 61. ISBN 9789462650916 
  2. ^ a b c d e Chemical, Biological, Radiological and Nuclear (CBRN) Threats”. Centre for the Protection of National Infrastructure(イギリス). 2019年8月8日閲覧。
  3. ^ a b c WMD Arms Control in the Middle East: Prospects, Obstacles and Options. Ashgate Publishing, Ltd. (2015). p. 129. ISBN 9781472435958 
  4. ^ UN (1948年8月12日). “, Resolution Adopted by the Commission at Its Thirteenth Meeting, 12 August 1948, and a Second Progress Report of the Commission”. 2019年8月10日閲覧。
  5. ^ FBI. “Weapons of Mass Destruction”. 2019年8月7日閲覧。 合衆国法典第18編第2332a条 18 U.S.C. § 2332a 人の生命に対し危険なほど強い放射能を有するか放射線を発する兵器
  6. ^ 合衆国法典第50編第2302条 50 U.S.C. § 2302
  7. ^ a b c Jonathan Medalia (2011年6月24日). ““Dirty Bombs”: Technical Background, Attack Prevention and Response, Issues for Congress”. Congressional Research Service. 2019年8月7日閲覧。
  8. ^ a b Charles D. Ferguson, Tahseen Kazi, and Judith Perera (2003年1月). “Commercial Radioactive Sources: Surveying the Security Risks”. Middlebury Institute of International Studies / graduate school of Middlebury College. p. 63. 2019年8月8日閲覧。
  9. ^ a b c d e f g WHO. “Radiological Dispersion Device (Dirty Bomb)”. 2019年8月8日閲覧。
  10. ^ Addley, Esther; Harding, Luke (2016年1月21日). “Key findings: who killed Alexander Litvinenko, how and why” (英語). The Guardian. ISSN 0261-3077. https://www.theguardian.com/world/2016/jan/21/key-findings-who-killed-alexander-litvinenko-how-and-why 2019年7月2日閲覧。 
  11. ^ 放射能兵器”. コトバンク. 2019年8月7日閲覧。
  12. ^ The Likely Effect of a Radiological Dispersion Device”. Liberty University (2005年12月31日). 2015年3月14日閲覧。
  13. ^ a b テロが計画されていた放射能爆弾「ダーティーボム」とは”. WIRED.jp (2002年6月12日). 2015年3月14日閲覧。
  14. ^ a b 秋山信将 (2005年11月29日). “核テロの脅威と対策”. 日本国際問題研究所. 2019年8月8日閲覧。
  15. ^ a b Robert Burns (2007年8月10日). “U.S. worked on secret Cold War weapon”. NBC. 2019年8月10日閲覧。
  16. ^ Pentagon Weighed Plan to Use Cobalt in Korea; Military Abandoned Idea as Impractical for Border— MacArthurSupported It”. New York Times (1964年). 2019年8月8日閲覧。
  17. ^ Leonard Beaton (1964-05-14). “Poor man's nuclear warfare?”. New Scientist (Reed Business Information) 22 (391): 411-412. 
  18. ^ a b Carl A. Curling, Alex Lodge (2016年6月). “Review of Radioisotopes as Radiological Weapons”. INSTITUTE FOR DEFENSE ANALYSES. 2019年8月8日閲覧。
  19. ^ CDC. “More Information on Types of Radiation Emergencies”. 2019年8月8日閲覧。
  20. ^ a b 研究報告No.29 武力紛争における劣化ウラン兵器の使用”. IPSHU 研究報告シリーズ. 広島大学平和科学研究センター (2002年11月). 2015年3月14日閲覧。
  21. ^ 劣化ウラン弾 被曝深刻”. 中国新聞. 2015年3月14日閲覧。

関連項目

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外部リンク

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