航空安全
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航空安全(こうくうあんぜん、英語: Aviation safety)は、「空の安全」とも呼ばれ、航空の安全に関係する事象の総称である。特に航空事故の防止等に関係する事象を指していう。日本の航空工学者・鈴木真二は、「航空機の歴史は飛行安全への獲得の歴史でもある」と述べている[1]。
概要
[編集]世界的には近年、民間航空における死亡事故発生率は増加傾向にはないものの、航空機の発着回数の増加に伴い、航空事故等の発生件数そのものは今後増加していく可能性が指摘されている。そのため、国際民間航空機関(ICAO) は締約国が「State Safety Programme (SSP)」を導入することを国際的な標準とし、航空の安全性が向上することを期待する意向を示した[2]。これを受け、国土交通省航空局 (航空安全当局) は、国際民間航空条約第19附属書に従い、「航空安全プログラム (SSP)」を平成25年10月に策定し、平成26年4月より導入した[3]。これには、次のような目標があるという[4]。
国民間航空の安全性を向上するため、国が安全指標及び安全目標値を設定してリスクを管理するとともに、義務報告制度・自発報告制度等による安全情報の収集・分析・共有等を行うことで、航空安全対策を更に推進する。
火山灰と航空安全
[編集]火山噴火により放出される火山灰などの噴出物は、上空を飛行する航空機の運航に甚大な影響を及ぼす。そのため、上空を飛ぶ航空機にとって、火山噴火による噴出物は大敵である。視界が悪化するだけでなく、ジェットエンジンが火山灰を吸い込むと停止し、墜落する危険があるためである。
噴煙の高度は火山噴火の規模にもよるが、大規模な噴火では高度10km〜20km(あるいはそれ以上)に達することもしばしばあり、高度約10,000mの上空を飛行するジェット機は噴煙に巻き込まれやすくなる。
噴煙は航空路の視程を悪化させ、操縦を困難にさせる。また火山灰に含まれる硬い粒子は、機体そのものやコックピットの窓を損傷させる可能性があり、重大な航空障害となる[5]。また速度計に火山灰が目詰まりすると計器が混乱する可能性もある[6]。
そして何より、火山灰はジェットエンジンの燃焼温度より融点の低いガラス質を多く含んでいるため、灰がエンジンに入り込んだ場合、熱で融解してエンジン内部に付着してしまい、エンジンは停止して最悪の場合墜落事故に至る危険性がある[5][7]。
災害事例
[編集]火山活動による航空機災害は、1944年にベスビオ火山(イタリア)が噴火した際に世界で初めて報告された[8]。
- ブリティッシュ・エアウェイズ9便エンジン故障事故
- 1982年6月24日、クアラルンプール(マレーシア)からパース(オーストラリア)へ向かっていたブリティッシュ・エアウェイズ9便(ボーイング747)が[9]、スマトラ島の南の高度11,470mを飛行中にガルングン火山(インドネシア)の火山灰に巻き込まれた[5]。パイロットはセントエルモの火を確認し、間も無く4基全てのエンジンが停止するに至った[10]。幸運にもエンジンはその後再始動し、ジャカルタへの緊急着陸に成功したため人的被害はなかったが、エンジン損傷の被害総額は85億円にのぼり[5]、この事故をきっけかに、航空路における火山噴火への対策が世界的に急がれた。
- KLMオランダ航空867便エンジン停止事故
- 1989年12月15日、KLMオランダ航空867便(ボーイング747-400)が、巡航中にリダウト火山(アラスカ)の火山灰を吸い込んで4基全てのエンジンが停止した。
- 2010年のエイヤフィヤトラヨークトルの噴火による交通麻痺
- 2010年にアイスランドで起きたエイヤフィヤトラヨークトルの噴火では、ヨーロッパのほぼ全域に火山灰が拡散したため、ヨーロッパ中のほとんどの空港が閉鎖して多数の航空便が欠航し(欠航便は噴火直後の2日間で3万6,000便に及んだ[11])、空の交通網に大混乱をもたらした。この混乱は約1ヶ月続き、延べ100,000便の航空ダイヤが乱れ、約8,000,000人の利用客が影響を受けた[12]。
航空路火山灰情報センター
[編集]日本の気象庁では、こうした火山灰によって引き起こされる航空機の被害を防止・軽減するため、国際民間航空機関(ICAO)の下で、航空路火山灰情報センター(東京VAAC)を運営している[5]。火山噴火に伴う火山灰により航空機の運航に影響が生じる恐れがある場合、東京VAACは「航空路火山灰に関する情報」などを発表して注意・警戒を呼びかけている[5]。
神社や寺院における航空安全
[編集]成田山新勝寺(成田国際空港)や穴守稲荷神社(東京国際空港)、飛行神社などの航空産業と関わりの深い社寺では、空の日や正月において、航空安全の祈祷式が執り行われている[13][14][15]。航空神社という航空安全のための神社も各地に存在する。
出典
[編集]- ^ 鈴木真二「新技術は航空安全にどのように活用されるのか:─型式証明の視点から」『学術の動向』第25巻第12号、日本学術協力財団、2020年、12_35-12_37、doi:10.5363/tits.25.12_35、ISSN 1342-3363、NAID 130008032725。
- ^ “航空:航空安全プログラムについて - 国土交通省”. www.mlit.go.jp. 2021年11月13日閲覧。
- ^ 国土交通省『航空安全プログラムの概要 (PDF) 』
- ^ “航空:航空安全対策 - 国土交通省”. www.mlit.go.jp. 2021年11月12日閲覧。
- ^ a b c d e f “火山灰の監視・予測”. www.jma.go.jp. 気象庁. 2022年2月7日閲覧。
- ^ “なぜ火山灰で飛行停止?(Q&A)”. 日本経済新聞 (2010年4月16日). 2022年2月20日閲覧。
- ^ “飛行機とお天気(8)火山と火山灰の巻 - 航空機の技術とメカニズムの裏側(175)”. TECH+ (2019年6月11日). 2022年2月20日閲覧。
- ^ 小野寺三朗・井口正人・石原和弘『火山噴火による航空機災害の防止と軽減』NAID 120001433533
- ^ 火山の噴火が航空輸送に及ぼすリスク (PDF)
- ^ Zhang, Benjamin (2017年11月29日). “火山が噴火すると、なぜ飛行機が飛ばなくなるのか?”. www.businessinsider.jp. 2022年2月20日閲覧。
- ^ 学研 地球科学研究倶楽部【編】『天変地異がまるごとわかる本』2013年 ISBN 978-4-05-405761-6 (46ページ)
- ^ “アイスランド・エイヤフィヤトラヨークトル火山噴火(2010年4月14日)”. Yahoo! 災害カレンダー. 2022年2月20日閲覧。
- ^ “空の日記念/航空安全特別大祈祷会を厳修 – 大本山成田山新勝寺”. www.naritasan.or.jp. 2023年3月30日閲覧。
- ^ “穴守稲荷、「空の日」に航空安全祈願祭復興 航空会社も参列”. Aviation Wire. 2023年3月30日閲覧。
- ^ 八幡市観光協会, 一般社団法人. “一般社団法人 八幡市観光協会”. 一般社団法人 八幡市観光協会. 2023年3月30日閲覧。
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- 航空安全対策 - 国土交通省
- 航空安全プログラムについて - 国土交通省