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阿蘇カルデラ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
阿蘇カルデラの地形図
阿蘇カルデラの空撮(2014年5月)
中央火口丘の南北に広がる市街地、 耕地、牧草地はカルデラ内に存在する。
大観峰から見た阿蘇カルデラ

阿蘇カルデラ(あそカルデラ)は、九州熊本県にある、阿蘇山を中心としたカルデラ地形である。

概要

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南北25km、東西18km[1]で、中心部に中央火口丘阿蘇五岳があって、カルデラ底を北部の阿蘇谷、南部の南郷谷に分断している。これらを標高300-700m級の外輪山が取り囲んでいる[1]

カルデラ内の阿蘇谷と南郷谷には湖底堆積物がある[2]地質調査ボーリング調査によって阿蘇カルデラ形成後にカルデラ内において湖が少なくとも3回出現したと考えられ、古いものから、古阿蘇湖、久木野湖、阿蘇谷湖と呼ばれている[3]。また、現在露出している中央火口丘群は活動期間後半の8万年前から現在までに形成された山体に過ぎず、活動初期の山体は噴出物に埋没している[4]

形成史

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阿蘇カルデラは、27万年前から9万年前に起きたAso-1、Aso-2、Aso-3、Aso-4と呼ばれる4つの火砕流の噴出に伴う活動で形成された。特に大規模だったのはAso-4で多量の火砕物を放出し、火砕流は当時は陸続きだった本州西部の秋吉台山口県)まで流走した[5]。その距離は160kmにもなる。Aso-4の噴火で、現在見られる広大な火砕流台地を形成した。その後の侵食でカルデラ縁は大きく広がり、現在の大きさにまで広がったと考えられている。なお、Aso-4火山灰日本列島を広く覆っていることは1982年に初めて気づかれ、1985年に発表された[6][7]。またこの4回の火砕流の体積は内輪に見積っても約200 km3である[8]

主な噴出年代と噴出量
  • Aso1 : 約26.6万年前[9]、噴出量 32 DRE km3[10]
  • Aso2 : 約14.1万年前[9]、噴出量 32 DRE km3[10]
  • Aso3 : 約13万年前[11]、噴出量 96 DRE km3[10]
  • Aso4 : 約9万年前、噴出量 384 DRE km3[10]

注)DRE(Dense Rock Equivalent)は換算マグマ噴出量。噴出堆積物の量はこれよりもはるかに多い。

阿蘇カルデラの大きさ

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阿蘇カルデラの大きさは、よく世界最大級[12][13][14]と言われるがそれは、阿蘇カルデラのようなじょうご型カルデラで、カルデラの内側に2.6万の人口をもつ集落を形成し、広く農地開墾が行われ、国道鉄道まで敷設されている例としては世界最大級ということである[15]

なお陸地における世界最大のカルデラはインドネシアトバカルデラ(長径約100km、短径約30km)である[16][17]。トバカルデラのようなバイアス型カルデラでは、70 - 80kmになることも珍しくない。また、日本では、屈斜路カルデラ[18](長径約26km、短径約20km)が最大で、阿蘇はこれに次ぐ第2位である[16]

人間との関わり

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有史後の阿蘇カルデラ内にはヒトが定住し、現在は阿蘇市阿蘇郡6町村がある。

活火山を中心とする巨大なカルデラ内に多くの人が暮らし、放牧などが営まれていることから、2013年に世界農業遺産、翌年には世界ジオパークに選定され[1]。観光地としても人気があり、阿蘇市には阿蘇火山博物館が設けられている。

熊本県庁と阿蘇地域の7市町村はかつて世界自然遺産登録をめざしたが、環境省などの国内検討会で2003年に落選し、その後は世界文化遺産へ向けた運動に転換した[1]

阿蘇カルデラ内の植生景観としては、草千里ヶ浜など草原が有名であるが、これらは放牧牧草採集のため、牧野(ぼくや)組合やボランティアが野焼きにより維持されているものである[1]

脚注

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注釈

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出典

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  1. ^ a b c d e 阿蘇の営み 文化遺産目指す■登録へ地元の動き活発/カルデラ景観 保全課題『読売新聞』朝刊2024年12月21日(解説面)
  2. ^ 久木野層(くぎのそう) 南阿蘇村”. 熊本県 (2010年1月6日). 2016年8月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年10月22日閲覧。
  3. ^ 古川邦之 & 鎌田浩毅 2005.
  4. ^ 長岡信治 & 奥野充 2004.
  5. ^ 藤井純子 et al. 2000.
  6. ^ 早川由紀夫. “日本のテフラ時空間分布図 阿蘇4”. 群馬大学教育学部 早川由紀夫研究室. 2021年10月22日閲覧。
  7. ^ 町田洋, 新井房夫 & 百瀬貢 1985.
  8. ^ 小野晃司 1984, p. 44.
  9. ^ a b 阿蘇火砕流”. 熊本県高等学校教育研究会地学部会. 2021年10月22日閲覧。
  10. ^ a b c d 山元孝広 2014.
  11. ^ 下山正一 2001.
  12. ^ 阿蘇山について”. 阿蘇山火山博物館. 2021年10月24日閲覧。
  13. ^ 阿蘇山について”. 阿蘇山火山防災連絡事務所. 2021年10月24日閲覧。
  14. ^ 阿蘇市の概要”. 阿蘇市役所. 2021年10月24日閲覧。
  15. ^ 阿蘇カルデラ”. JSTデジタル教材【地球】ビジュアル情報集. 2015年4月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年10月24日閲覧。
  16. ^ a b 中田節也 (2002年8月26日). “火山についてのQ&A(Question #2509)”. 日本火山学会. 2021年10月24日閲覧。
  17. ^ 早川由紀夫. “火山 4章 火山のかたち”. 群馬大学教育学部 早川由紀夫研究室. 2021年10月24日閲覧。
  18. ^ 屈斜路カルデラ”. 第四紀火山岩体・貫入岩体データベース. 産業技術総合研究所 地質調査総合センター. 2021年10月24日閲覧。

参考文献

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  • 古川邦之、鎌田浩毅「阿蘇カルデラ内西方, 高野尾羽根流紋岩溶岩の内部構造」『地質学雑誌』第111巻第10号、日本地質学会、2005年、590-598頁、doi:10.5575/geosoc.111.590 
  • 長岡信治、奥野充「阿蘇火山中央火口丘群のテフラ層序と爆発的噴火史」『地質学雑誌』第113巻第3号、日本地質学会、2004年4月25日、425-429頁、doi:10.5026/jgeography.113.3_425 
  • 藤井純子、中島正志、石田志朗、松尾征二「山口県に分布する阿蘇4テフラの古地磁気方位」『第四紀研究』第39巻第3号、日本第四紀学会、2000年6月1日、227-232頁、doi:10.4116/jaqua.39.227 
  • 町田洋、新井房夫、百瀬貢「阿蘇 4 火山灰 : 分布の広域性と後期更新世示標層としての意義」『火山.第2集』第30巻第2号、日本火山学会、1985年7月1日、49-70頁、doi:10.18940/kazanc.30.2_49NAID 110002989968 
  • 小野晃司「火砕流堆積物とカルデラ」(PDF)『アーバンクボタ』第22巻、株式会社クボタ、1984年4月、42-45頁。 
  • 下山正一「低平地地下における阿蘇3火砕流堆積物(Aso-3)の年代について」『低平地研究』第10巻、佐賀大学低平地防災研究センター、2001年8月、31-38頁、ISSN 09179445NAID 110000579477NCID AN10565818 
  • 山元孝広「日本の主要第四紀火山の積算マグマ噴出量階段図(阿蘇カルデラ)」(PDF)『地質調査総合センター研究資料集』第613巻、産総研地質調査総合センター、2014年。 
  • 松本征夫; 松本幡郎『阿蘇火山-世界一のカルデラ』東海大学出版会、1981年5月1日。ISBN 978-4486005971 

関連項目

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外部リンク

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