コンテンツにスキップ

小島信夫

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
小島 信夫
(こじま のぶお)
『新刊展望』1965年3月1日号より
誕生 1915年2月28日
日本の旗 日本岐阜県稲葉郡加納町
(現・岐阜市加納安良町)
死没 (2006-10-26) 2006年10月26日(91歳没)
職業 小説家
言語 日本語
国籍 日本の旗 日本
教育 学士文学
最終学歴 東京帝国大学英文学科卒業
活動期間 1953年 - 2006年
ジャンル 小説
文学活動 第三の新人
代表作アメリカン・スクール』(1954年)
抱擁家族』(1965年)
『私の作家遍歴』(1980年)
『美濃』(1981年)
別れる理由』(1982年)
『うるわしき日々』(1997年)
主な受賞歴 芥川龍之介賞(1955年)
谷崎潤一郎賞(1965年)
芸術選奨(1973年)
日本文学大賞(1981年)
日本芸術院賞(1982年)
野間文芸賞(1982年)
読売文学賞(1998年)
旭日重光章(2004年)
正四位(2006年、没時叙位)
デビュー作 『小銃』(1953年)
ウィキポータル 文学
テンプレートを表示

小島 信夫(こじま のぶお、1915年大正4年〉2月28日 - 2006年平成18年〉10月26日)は、日本小説家。中国から復員後、教師を経て『小銃』で文壇に登場。「第三の新人」の一人と目されるも、抽象表現を帯びた前衛的手法の作品に独自の道を拓いた[1]。評伝や文学論でも活躍[1]日本芸術院会員。文化功労者位階正四位

略歴

[編集]

岐阜県稲葉郡加納町(現・岐阜市加納安良町)出身。旧制岐阜中学校(現・岐阜県立岐阜高等学校)、第一高等学校を経て、1941年東京帝国大学文学部英文科卒業。卒業論文は『ユーモリストとしてのサッカレイ』。

1942年より中国東北部で従軍、敗戦でポツダム上等兵(伍長)。1946年復員し、1948年4月から千葉県立佐原女子高等学校で教え、1949年度より東京都立小石川高等学校に移る。1954年からは明治大学工学部(現・理工学部)助教授として英語を教え、1961年に工学部教授に昇格、以後1985年の定年まで勤務する傍ら旺盛な文筆活動を行った。

2006年10月26日、肺炎のため91歳で死去した[2]。没日付で正四位に叙位[3]

作風

[編集]

初期には、実存主義的な不安やブラックユーモアのあふれる小説を書いて、吉行淳之介遠藤周作安岡章太郎らと共に第三の新人と呼ばれた。第一次戦後派作家の年少組と同世代ながら、文壇デビューが遅かった(『アメリカン・スクール』での芥川賞受賞が1954年)ためである。1970年代をある種の境として、岐阜を故郷に持つ作家を巡ってメタ的な描写の横溢する『美濃』や、破綻をかろうじて耐えつつ虚実の入り乱れる『別れる理由』以降、作者自身やその友人と同名の人物、あるいはあからさまにモデルとなった人物、もしくは同一人物そのものを登場させる手法を確立する。先行する文学作品・芸術作品・過去の自作の引用(しばしば不正確あるいは恣意的に変形されている)や自身の身辺や時事の記憶等に幅広く材を採りつつ、いわゆる文語ではなくやわらかな質感を持ちながら省略や倒置が多く、時制・主体などが入り組んだセンテンスや独特の違和感を喚起する会話文といった特徴を持つ難解な文体を用いて、メタフィクション、ひいては小説全体に対する批評的な距離を測るように旺盛な創作活動を続けていた。

受賞・栄典

[編集]

作品一覧

[編集]
※は電子書籍で再刊

小説

[編集]
  • 『小銃』新潮社 1953
  • 『アメリカン・スクール』みすず書房 1954
  • 『微笑』河出新書 1955
  • 『残酷日記』筑摩書房 1955
  • 『チャペルのある学校』筑摩書房 1955
  • 『凧』書肆ユリイカ 1955
  • 『島』大日本雄弁会講談社 1956 のち集英社文庫
  • 『裁判』河出書房 1956
  • 『愛の完結』大日本雄弁会講談社 1957
  • 『夜と昼の鎖』講談社 1959
  • 『墓碑銘』中央公論社 1960 のち潮文庫、講談社文芸文庫
  • 『女流』講談社 1961 のち集英社文庫※
  • 『大学生諸君!』集英社 1963
  • 『愉しき夫婦』芥川賞作家シリーズ 学習研究社 1965
  • 抱擁家族』講談社 1965 のち講談社文庫、講談社文芸文庫※、同ワイド版
  • 『アメリカン・スクール』新潮文庫※ 1967、改版2008
  • 『弱い結婚』講談社 1966
  • 『愛の発掘』講談社 1968
  • 『異郷の道化師』三笠書房 1970
  • 『階段のあがりはな』新潮社 1970
  • 『憂い顔の騎士たち』旺文社文庫 1973
  • 『靴の話・眼』冬樹社 1973 のち講談社文芸文庫※
  • 『公園・卒業式』冬樹社 1974 のち講談社文芸文庫※
  • 『ハッピネス』講談社 1974 のち講談社文庫※
  • 『城壁・星 戦争小説集』冬樹社 1974 のち講談社文芸文庫※
  • 『小銃』集英社文庫 1977※
  • 『釣堀池』作品社 1980
  • 『夫のいない部屋』作品社 1980
  • 『美濃』平凡社 1981、講談社文芸文庫※ 2009
  • 『女たち』河出書房新社 1982
  • 別れる理由』講談社 全3巻 1982、小学館 全6巻※ 2019
  • 『墓碑銘・燕京大学部隊』福武書店〈文芸選書〉 1983
  • 『月光』講談社 1984
  • 『菅野満子の手紙』集英社 1986
  • 『平安』講談社 1986
  • 『寓話』福武書店 1987
  • 『静温な日々』講談社 1987
  • 『殉教・微笑』講談社文芸文庫※ 1993
  • 『暮坂』講談社 1994 のち「月光・暮坂」講談社文芸文庫※
  • 『うるわしき日々』読売新聞社 1997、講談社文芸文庫※ 2001
  • 『X氏との対話』立風書房 1997
  • 『こよなく愛した』講談社 2000
  • 『各務原・名古屋・国立』講談社 2002、講談社文芸文庫※ 2022
  • 『残光』新潮社 2006 のち文庫
  • 『ラヴ・レター』夏葉社 2013

戯曲

[編集]
  • 『どちらでも』河出書房新社 1970
  • 『一寸さきは闇』河出書房新社 1973

随筆・評論

[編集]
  • 『実感・女性論』講談社 1959 のち講談社文庫※
  • 『愛の白書 夫と妻の断層』集英社 1963
  • 『小島信夫文学論集』晶文社 1966
  • 『現代文学の進退』河出書房新社 1970
  • 『変幻自在の人間』冬樹社 1971
  • 『小説家の日々』冬樹社 1971
  • 『私の作家評伝』全3巻 新潮選書 1972-1975 のち潮文庫(抄) 中公文庫※ 2024
  • 『文学断章』冬樹社 1972
  • 『夫婦の学校私の眼』北洋社 1973
  • 『私の作家遍歴』全3巻 潮出版社 1980
  • 『そんなに沢山のトランクを』創樹社 1982
  • 『幸福が裁かれる時』海竜社 1983
  • 原石鼎-二百二十年めの風雅』河出書房新社 1990、増補新版1992
  • 『漱石を読む 日本文学の未来』福武書店 1993
  • 『書簡文学論』水声社 2007
  • 『小説の楽しみ』水声社 2007
  • 『演劇の一場面 私の想像遍歴』水声社 2009
  • 『風の吹き抜ける部屋』幻戯書房 2015
  • 『小説作法』中公文庫 2023※ - 文庫新編

翻訳

[編集]
以下は短編訳で、各社の「世界文学全集」に収録

共著

[編集]

作品集・全集

[編集]
  • 『新鋭文学叢書3 小島信夫集』筑摩書房 1961。武田泰淳解説
  • 『新潮日本文学54 小島信夫集』新潮社 1972。篠田一士解説
    • 「抱擁家族」「小銃」「殉教」「アメリカン・スクール」ほか全11篇
  • 『新潮現代文学37 小島信夫』新潮社 1981。柄谷行人解説、全7篇
  • 『小島信夫全集』全6巻、講談社 1971
    • 長編・短編・評論をそれぞれ3巻・2巻・1巻に分け収録。各巻に追記を連ねて構成した著者あとがきを収録。
  • 『小島信夫批評集成』全8巻、水声社 2010-11
    1. 現代文学の進退
    2. 変幻自在の人間
    3. 私の作家評伝
    4. 私の作家遍歴Ⅰ
    5. 私の作家遍歴Ⅱ
    6. 私の作家遍歴Ⅲ
    7. そんなに沢山のトランクを
    8. 漱石を読む
  • 『小島信夫短篇集成』全8巻、水声社 2014-15
    • 単行本未収録を含め確認されている全短篇を収録。異稿も差異が大きい数篇を収録。
  • 『小島信夫長篇集成』全10巻、水声社 2015-16。全長篇を収録。短・長篇共に編集委員は千石英世中村邦生
    1. 島/裁判/夜と昼の鎖
    2. 墓碑銘/女流/大学生諸君!
    3. 抱擁家族/美濃
    4. 別れる理由Ⅰ
    5. 別れる理由Ⅱ
    6. 別れる理由Ⅲ
    7. 菅野満子の手紙
    8. 寓話
    9. 静温な日々/うるわしき日々
    10. 各務原・名古屋・国立/残光

執筆以外の活動

[編集]

1999年、郷土の岐阜県で小島信夫文学賞が創設され、生前は授賞式などに参加した。2005年7月および2006年3月の二度にわたり、保坂和志との対談イベントが企画され、会場に集まった多くの聴衆を時おり爆笑に誘う独特の語りをみせた。会場には、英米文学者の山崎勉枡野浩一茂木健一郎柴崎友香長嶋有、映画監督の長崎俊一など、一般の読者や出版関係者以外にも大勢が来場した。
1回目の対談の模様は、新潮社の「考える人」(2005年秋号)に掲載。また2回目の模様は、草思社より2006年10月にDVDブックとして発刊される予定だったが(さまざまな都合で)実現しなかった。岐阜県図書館で「小島信夫展」が2008年6月13日~12月25日の日程で開催され、会期中にはともに小島信夫文学賞の選考委員も勤める青木健堀江敏幸の公演も行われた。

脚注

[編集]
  1. ^ a b 「小島信夫さん 91歳 死去」『毎日新聞』2006年10月26日夕刊11頁。
  2. ^ 芥川賞作家・小島信夫氏が死去 YOMIURI ONLINE(読売新聞)
  3. ^ 『官報』第4476号10頁(平成18年12月4日付)参照
  4. ^ 『朝日新聞』1982年3月3日(東京本社発行)朝刊、22頁。
  5. ^ 平成16年春の叙勲 旭日重光章受章者” (PDF). 内閣府. p. 1 (2004年4月29日). 2004年8月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年4月24日閲覧。

関連書籍

[編集]
  • 編『小島信夫をめぐる文学の現在』福武書店 - 大橋健三郎他全7名
  • 千石英世『小島信夫 ファルスの複層』小沢書店
    • 増補版『小島信夫 暗示の文学、鼓舞する寓話』彩流社
  • 坪内祐三『「別れる理由」が気になって』講談社
  • 水声通信No.2「小島信夫を再読する」水声社 2005年12月
  • 昭和女子大学図書館編『小島信夫の読んだ本―小島信夫文庫蔵書目録』水声社 2012年5月
  • 昭和女子大学図書館編『小島信夫の書き込み本を読む―小島信夫文庫関係資料目録』水声社 2013年3月
  • 青木健『小島信夫の文法』水声社 2017年11月
  • 柿谷浩一『小島信夫完全作品書誌・講談社文芸文庫版追補』私家版
  • 三浦清宏『運命の謎 小島信夫と私』水声社 2021年9月
  • 村上春樹『若い読者のための短編小説案内』文藝春秋 - 以下は評論での作品論
  • 上野千鶴子小倉千加子富岡多恵子『男流文学論』筑摩書房
  • 高橋源一郎『一億三千万人のための小説教室』岩波書店
  • 講談社文芸文庫編『戦後短篇小説再発見〈10〉表現の冒険』講談社

参考文献

[編集]

関連人物

[編集]

関連項目

[編集]

外部リンク

[編集]
pFad - Phonifier reborn

Pfad - The Proxy pFad of © 2024 Garber Painting. All rights reserved.

Note: This service is not intended for secure transactions such as banking, social media, email, or purchasing. Use at your own risk. We assume no liability whatsoever for broken pages.


Alternative Proxies:

Alternative Proxy

pFad Proxy

pFad v3 Proxy

pFad v4 Proxy